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兎の世界にとりっぷ!  作者: 汐井サラサ
兎の世界に囚われて
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第二話

 私が落ちた先は、一見して草原だったけど異世界の中心? 的なところだった。どの国にも属さずどの国とも繋がりを持った、ちょっぴりずるがしこいような気のする場所。


 痛む後頭部を押さえて唸る私を「いつまで寝ているんですか」と蹴った……蹴ったよこの人っ! は、私の顔を覗き込んで「まぁ、見た目はそんなに悪くはないですね」と失礼なことを口にした。


 そして、早く掴れ、というように手を差し出してきた。

 私は恐る恐る、その手を取って立ち上がる。


 覗き込んできていたときには黒く見えたのだけど、翳っていたのだろう……月の光に当たると硝子玉のような瞳は赤みを帯びて優しげに見える。

 全体的に派手な造りではないが、落ち着いた綺麗な人だ、とか思っていると、すっと伸びてきた腕が無遠慮に後頭部に触れ思わず悲鳴を上げた。


「いったい! 痛いです! 私、さっき変なうさぎに頭を殴られて……いや、うさぎ? 喋って、いやいやいや、私頭おかしいですね」


 いや、本当おかしいよ。

 

 いいながら、がっくりと肩を落としそうになったが私の悲鳴に驚いたのか、対峙していた男性はびくりと手を引っ込めた。

 すみません。と、重ねて詫びようと思ったら、私の時間は止まった。直前まではなかったはずだ。なかったはずなのに……


「か、変わった髪形ですね?」


 指差し確認。頭頂部にぴょんっと出てきたのは白いウサギ耳に見える。


「……悪かったですね。変なうさぎで」

「な、軟骨が……リアルですね、趣味ですか?」


 とりあえずジャンプして触診。バニーちゃん?……いや、今どき何喫茶の店員だろう?


「……見たとおりのうさぎですが、問題が?」


 ないと思っている人の方がどうかしているはずなのに、否とはいわせない雰囲気で……すみません。と謝ってしまっていた。


「名前はなんですか?」

「は?」

「名前です。呼ぶときに困るじゃないですか」

「え、ああ、夕菜。葉月、夕菜です」

「ユーナ、ね、分かりました」


 一人で納得して、踵を返し草原を歩き始めてしまった。

 私は右も左も分からない、というか右とか左とかあるのかと問いたくなるような草原だ。

 慌ててその背中を追い掛けてしまった。実はあのとき追いかけなかったら良かったのではないか? と、今ちょっと思う。思うのに「あ」と足を止めて振り返り


「僕の名前はルイです。仲良くしてくださいね」


 と微笑んだ顔が余りにも穏やかで、人畜無害そうに見えたからつい……私は道を踏み外した。




「ユーナ! ぼうっとしていないで行きますよ!」

「あ、はい」


 私は上司の声に急かされて書きかけの手紙を無造作に机の引き出しに突っ込んだ。


「今日の予定は、確か羊の国へ……」

「変更です。急遽、豹の国へ向います。どうやら、あちらに派遣しておいた使用人が負傷したらしいので、人員の入れ替えと現状の確認をしに向います。全く、僕は忙しいんですよ。忙しいのに……大体、豹から逃げるくらい雑作もないでしょうに、無能な人材を送ってしまったこちらにも非があります。謝罪も兼ねますので……」


 豹から逃げ出すことを、雑作もないといいのけるのは、あんただけだと思うよ。なんて思っても口に出来ない。出来るわけがない。


「聞いていますか? ユーナは上司の愚痴も聞けないんですか」


 それは仕事の一環ですか?!


「はぁ、そうですね」


 思わず気のない返事をしてしまった私に、ルイさんは面白くないように眉を寄せる。


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