第十一話
屋敷に戻っても私はルイさんの書斎までずりずり引っ張られた。途中靴が脱げそうになって慌てたのにルイさんは微塵も気にならないらしい。というかそろそろ苦しい。階段とかいじめだと思った。
ようやく離してもらって、けほっと軽く咽る。
そのまま部屋の中央にへたり込んだ私に「ソファにくらい座ればどうですか?」といわれ今日歩きすぎて足が思うように動かないことを口にする前に
―― ……ひっ!
あっさりとルイさんに横抱きにされ抱えられるとソファの上に、ぼそっと落とされた。とはいえ、もっと丁寧に扱ってください。
「貴方は体力勝負には向いていないのですから、もっと頭を使いなさい。足に力が入らなくなるほど歩いてどうするんですか」
拍車をかけたのは貴方が引きずるからですけどね。
いいそうになって口を噤んだ。というかルイさんの次の行動に驚きすぎて声が出なかった。
いつものようにぶつくさいいながらも、私の傍に膝を下ろしたルイさんは絨毯についていないほうの膝を立てて私の足を乗せると靴を脱がせた。編み上げのショートブーツなのに丁寧に靴紐を緩めてそっと抜き取っていく動きに無駄はない。
「ルルルルル……」
恥ずかしさに真っ赤になっている自覚はある。そしてろれつも廻らない私にルイさんは「歌ですか?」と的を外した声を掛けて首を傾げる。
両方の靴を脱がせ終わると、ソファに足を伸ばさせて手近にあったクッションを膝の後ろに入れてくれた。
あ、なんか少し足がすっとした気がする。
「ありがとう、ございます……」
ぼそりと口にした私にルイさんはいえと短く答えて続ける。
「本当はお湯にでも浸かったほうが良いのでしょうけど、僕は少しユーナの話が聞きたいのでこれで我慢してください」
と続けられたことに身構えてしまった。
そして床に膝を着いたままのルイさんに座っては、というまえに話を始められてしまった。
「で、どうしてユーナが鍵を持っていたんですか?」
「落ちてたんです。塔の傍に……」
「昨日……というわけではないですよね?」
重ねられて、私はうっと声を詰めた。一週間くらいは軽く持ってたと思う。
「落としたのは僕の落ち度なので不問としますが……」
いいつつ、探していたんですよ。と重ねられたのは意外だった。一緒に居たのに全然気がつかなかった。探してたんだ……ルイさん気がついてないんだと思っていたのに、ちくりと心が痛んだ。申し訳ないことをしてしまった。
「ユーナは物事を正面からしか捉えられない性質のようですから、それを分かっていて……僕も少しいい過ぎたかもしれません」
―― ……え?
もしかして、もしかして、もしかしてっ!! ルイさん謝ってる? 私に謝罪しているとかありっ?!
しかも動揺してるのか? 耳、出てますけど。シリアスにうさぎ耳は似合いませんけど。しょぼーんって左右に垂れてますけど。
「ユーナ、人の話を聞いていますか?」
「はい。耳が超可愛いです」
―― ……は!
しまったと思うのが遅かった。つい心の声が駄々漏れになってしまった。
「ほぅ?」
ゆらりと立ち上がったルイさんの表情が読めない。燭台の明かりが眼鏡に反射して怖いです。