第十話
「獣型に戻っていただけますか? 今、この場で」
いやいやいや、ないないない。レヴィアン様。この人屋敷の中でも獣型とらないんだよ? こんなワンちゃんたちに囲まれてるところで戻るわけないじゃない。
ルイさんは「は?」と驚いた様子だったがレヴィアン様が言葉を下げないことに短く嘆息する。
軽く組んだ指先で爪を弾いている。
何か問題が起こったときに出るルイさんの小さなクセだ。
困っている。
―― ……止めてあげなくちゃ!
私は思って、声を上げようとしたらルイさんは静かに立ち上がった。きっと怒って帰っちゃうんだろう。そう思うと何故だかまた泣きそうになった。
しょぼんっと俯いていた私の視界の隅で僅かな光が見えた。
―― ……え?
「これで、宜しいのですね」
驚いて私が顔をあげた先にはソファの上で白いうさぎが器用に二本足で立っていた。可愛いのにどこかえらそうに見えるのはこの際見ない振りをしても……
戻った。戻ったよ。あの、自尊心の強いルイさんが! 私でも久しぶり感が否めない。
あ、そういえば、私、今度ルイさんがうさぎになったら両耳引っつかんで振り回してやるーっ! って思ってたんだ。
「え?」
―― ……むんず
思っていたのは私だけど、実際ルイさんの捕獲をしたのはにっこり穏やかなななさんだった。「お話があります」と、そのままソファから引き離してつかつかとルゥさんとライさんに開けて貰った扉から出ていった。
「え、ええ?」
驚いたのは私だけではなくこの場に居た全員だったと思うが声を上げたのは私だけだった。躾が行き届いている。しみじみ。
「戻ってあげてはどうですか?」
「え?」
「元々とても警戒心が強い方ですし、うさぎは臆病でもある。人型をとっているときならまだしも、私たちの前で獣の姿を晒すことが出来るのは軽い気持ちではないと思いますよ」
―― ……う。
確かに、狩猟犬の前でうさぎ放っちゃ駄目だろう。
ななさんとルイさんは直ぐに戻ったがそのときには人型に戻っていた。つかつかと歩み寄ってくるルイさんに思わず逃げ出しかけて―― 反射的なものです。ごめんなさい ――やっぱり私は首根っこ掴まれた。
「帰りますよ」
いえ、ちょ、ま……!
きちんとお礼くらいと思うのに、細身とはいえ人型ルイさんの力には敵わない。なんとかお邪魔しましたとは口に出来たけど……それ以上は無理で、簡単にずりずりと引きずられて屋敷から連れ出されてしまった。
空には、もう、お日様の名残のような明かりしか残っていない。あ……一番星だ……。
※ 犬の世界にお邪魔しました。
犬世界創作者さまにチェックしていただいてから公開させていただいています。
快くお邪魔させてくださいました作者さまに感謝を込めて……。