第九話
私はほっと胸を撫で下ろしたのに、ルイさんは引かなかった。
「彼女はうちの滞在者です。貴方が彼女を止める道理はない」
「それはルイ殿にもいえること、じゃないですか?」
流石は館主。ルイさんの眼光に引いたりしない。(当たり前だと思うけど)
「それに、彼女は貴方に怯えているように見えますが」
重ねられた言葉に、ルイさんはほんの少しだけ哀しそうな色を見せて―― 気の所為だとは思うけれど ――それは……と黙り込む。誰の目にも明らかで誰にも否定できない事実だからだ。
「可愛いからといって苛めるのは子どものすることだと思いますが」
レヴィアン様一体何をっ?! ほんの少し楽しそうにそう口にしたレヴィアン様に私は慌てたがルイさんは特に慌てた風はなく「邪推ですよ」と笑った。
「ユーナでは、一人で働いてこの世界で生きていくのは難しい。そう判断したから保護している。それも僕たちの役目ですよね?」
私は何も出来ないからとしょんぼりと肩を落としてしまった。
それを見ていて意外にも助け舟を出してくれたのは秘書のジルさんだった。彼は私をどこに働きに出しても問題なく、良い仕事をするだろうなんて意味合いのことを告げてくれる。そんな風にいってくれるのは彼だけだろう。良い人だ。犬だけど。
それなのに私は次の言葉を疑った。
「当然です」
「え?」
間の抜けた声は私だ。
そんな私をちらりと見たあとルイさんは中指で眼鏡を押し上げて一呼吸。
「仕事に関しては彼女は優秀です。当然でしょう。僕の傍でどれだけ多くを学ばせたと思っているんですか、あれで身に付かないわけがない」
「え、でも」
そんなこといわれたことない。
「屋敷の皆が分かっていることですよ、ユーナ」
みんなってことはルイさんもそう思ってくれているのかな? だったら私はどうなんだろう。
「ユーナ、ただいまという先を間違えているんじゃないですか?」
偽りを感じさせない真っ直ぐな瞳で見つめられ重ねられた言葉にきゅっと唇を引き結んで俯いた。
「ユーナ殿はご自身でこちらを選んだわけですから、貴方が強制するのは如何なものかと思いますよ」
「ご迷惑をお掛けした詫びは後日きちんとさせていただきます」
きっぱりとそういったルイさんにレヴィアン様はそういうことではなくと楽しそうだ。今は完全に人型を保っているが尻尾が出ていたら楽しげにぱたぱた振ってそうな気がする。
「どうしても貴方が彼女を連れて帰るというのなら、その誠意を見せていただきたい、そう、ですねぇ」
気のせいじゃない。レヴィアン様、超が付くほど楽しそうだ。