第六話
―― ……見覚えはあるような、でもいろんなところへ行き過ぎてよく分からないな。
基本的に門前に出ることが多い。今回も例外ではないが……荘園風の屋敷が遠くに見える。
「誰だ!」
一歩足を踏み出したところで直ぐに声が掛かった。まぁ、なんのアポもとってない不審者だから当然だ。
声のしたほうを見て、合点が行った。
「犬族方のところですか……」
私の声に凄みをきかせているハスキー犬は確か
「ルゥさん……でしたよね?」
正解だったのか唸っていた声を収めて様子を窺っている。その隣で慎重に状況を判断しようとしているのはライさんといったと思う。その確認をしたところでライさんは私を覚えてくれていたらしい。
二人に事情を話すと館主であるレヴィアン様に話を通してくれるといってくれた。やっぱり優しい。話が分かる人は良い。
レヴィアン様の居室へと通してもらうと、ななさんがレヴィアン様の毛づくろいをしていた。
柔らかな笑顔で「あらあら」と立ち上がって迎えてくれる。レヴィアン様も邪魔をしてしまったというのに嫌味が出ないっ! なんて出来た人(犬)なんだっ! ちょっとのことで感動してしまう自分が悲しい。
一度は私が居座ることを断られた場所だからどうだろうと不安だったが、事情を説明すると、どういうわけか、ななさんはもちろんレヴィアン様も簡単に了承してくれた。本当になんて出来た人(犬)たちなんだ。
本当にちょっとしか居座るつもりなんてなかったから、部屋なんて納屋でもどこでも構わなかったのに、客室まで用意してくれた。
本当になんて出来た人(犬)なんだ! ――感動のあまりちょっと重ねすぎた。
朝を抜いてきていたのでお腹がなってしまった私に嫌味の一つもなく昼食にしようともいってくれた。本当に……以下省略。
その日は結局妙な時間帯になったので仕事を探しに出るのは明日からにした方が良いと助言され、私は何かお手伝いをとレヴィアン様の秘書も勤められているジルさんの事務手伝いをやらせてもらった。
迷惑なのは分かっていたのだけれど、大抵の書類は見慣れたものだったので仕分けも細かいチェックも割りと短時間で行えたと思う。思うけど、ルイさんだったら文句の一つもいいそうなのに……ジルさんは良く出来ていると褒めてくれた。
これならどこでも普通に雇ってもらえるだろうとまでいってくれたし、ルイさんがきちんと教えてこられたのだろうとも重ねてもらった……そう、なのかな?
あっちでは怒られてばかりで褒められることなんてなかったから、こちらに来てまだ数時間のはずなのに、もう一年分くらいは褒められた気がする。
なんだか変なの。