第四話
―― ……どうでも良いんだな。私なんて……。
結局、やっぱり他にやるところもないし帰す当てもないから仕方なく私はここに居させてもらっているんだ。そんなこと、いつもはっきりルイさんもいっていたのに、どうして私は少しくらい役に立ってるなんて思ったんだろう。
「ちぇ……」
ぽろ……っと絨毯の上に雫が落ちるとあとはもう止まらなくなった。年甲斐もなくぽろぽろと涙が溢れてくる。こんな風に泣くことなんて殆どなかったのに……。
ひっく。
しゃくりあげつつも、こんな時間までルイさんは仕事をしているのだなとかちらりと思ってしまって、私ってとても残念な子だ。
「あいたたた……」
翌朝、私は絨毯の上で目を覚ました。泣き疲れて寝たんだと思うけど、我ながら絨毯の上で寝るとはと呆れる。朝食に声を掛けてくれたフィズを断って私は顔洗って着替えてから鏡の前に立つと酷い顔をしてた。
元気出せ、私っ!
とぺしっと両頬を叩いて包む。ルイさんは平然としていたのだから私も平然としていれば良い。いつも通りにしていれば。
うんと鏡に向って頷いてふと目に留まった鍵。
着替えるときにはいつも、いつでも返せるようにとポケットに忍ばせておいたのだけどお風呂から上がってから翌日着替えるまではドレッサーの上に置きっぱなしだった。
「……鍵……」
―― ……新しい職探しでもしてはどうですか?
以前いわれたことが脳裏に蘇る。
「そうしたほうが良いかもしれない」
ぎゅっと鍵を握り締めた私は、もう一度「それが良いかもしれない」繰り返した。
いつもなら朝少しでも遅くなったら呼びに来るルイさんは来ない。もういつもの時間を十分も過ぎている。昨日遅かったようだからとかそういう可愛らしいミスをするような人(兎だけど)ではないから、来る気がないのだろう。
私は、今度は違う意味でうんと頷いて簡単に部屋を片付けて特に持ってきたものもないから私物なんてないも同然、体一つでそっと部屋を出た。
朝の忙しい時間を少し過ぎた頃だからみんなそれぞれの職場に居るし廊下も静かだ。私はぼんやりと廊下を歩きながら塔を目指した。
どこに繋がっているかは分からないけれど、ここではないどこかだ。元の世界でもないけどね。
「ユーナ」
私は掛かった声に肩を強張らせたけど、私の名を呼んだのはフィズだった。私が朝食を取らなかったことを心配してくれたのだろう。手にしていたトレイには簡単な食事が載っていた。
「お腹すいてるんじゃないかと思って……」
フィズは本当に良い子だ。