第三話
―― ばたんっ!
私は部屋の扉を乱暴に閉めてそのままの勢いでベッドにダイブすると枕元に並んでいた五つの枕を次々と壁に向って投げつけた。
届かないけど。部屋広すぎて全然壁に当たらないけどっ!
「はぁっ!……はぁっ!」
衝撃に舞った羽がふわりふわりと柔らかな絨毯の上に降りていくのを見つめて私は膝を抱えた。
大体っ! 私だって彼氏居ない歴イコール年齢じゃないんですからねっ! それなりに居たよっ! 居たんだって、本当にっ! 当たり前じゃんっ! それなのにあのうさぎっ! いうにことかいてっ!
「……あ、でも」
ルイさんはどうなんだろう? あの性格からして女の人に好かれるとは思わないし、長続きするとは思えないけど、顔が無駄に良いからなモテないってことはないだろうし……。女の子のうさぎ、ちょー可愛いし。フィズなんてお人形だよ、マジで、シル○ニアだよ。
そっか、そうだよねぇ。
世の中不条理に出来てるからね、性格バッチリの不細工よりも性格に難有りの美形の方がもてるんだよねきっと。みんな真実を知らなさ過ぎるよ。
もう投げつける枕もなくなったから私はとんっとベッドから降りてバルコニーに出る。綺麗だな。見渡す限りなんにもなーい! 高いビルも道路もない……大草原だ。こんなところで私、何やってるんだろう。手すりに寄りかかり、はーと重たい溜息をつく。
―― ……ま、勢いで飛び出してきたけど、謝罪じゃなくても迎えにくらい来たら仕事に戻っても良いかな。
大自然は癒し効果抜群だ。そんな上から目線だけど寛大な気持ちになる。
だから私は待った。
待った……待ったよっ?!
―― ……しーん
こ、来ない。とっぷりと日は暮れてしまった。もう夜の帳が下りる時間とかそんなときは過ぎ去った。夕食に呼ばれて食べに行ったけど、大浴場にも行ったけど、そのくらいしか部屋を離れてない。
くっ! 私が怒っていようと臍を曲げていようとあの白うさぎはなんともないということか! そうじゃないかとは思っていたけど……思ってたけど、ちょっと悔しいっ!
がっくりとベッドに両手をついて額を押し付けたところで、コンコンと扉を叩く音が聞こえる。
私が獣族だったら確実に尻尾出して振っていたと思う。
「ユーナ。起きてますか?」
「はい、はいっ! 起きてます」
声の主はもちろんルイさんだ。珍しく扉を開けないところを見ると、気を使ってくれているのだろうか? とかちょっと心躍る。
私は扉のところへ駆け寄って少しだけ扉を開けた。
「何か用ですか?」
私の中で最大級の努力で抑揚のない気のない返事をしてみた。ルイさんは特に変わった風はなく「用といえば用ですが」と前置いた。
「休んでいて結構ですから、指輪を貸してください。仕事が進まなくなりました」
すっと綺麗な手が扉の隙間から入ってきた。節の目立つ指先にははっきりとペンダコが出来てしまっている。
とはいえ……。昼はすみませんでしたとか、いい過ぎましたとか、そんなものは一切ないとはいー度胸だ。
「どーぞ!!」
私はイライラを押さえて、乱暴に中指にあった指輪を抜き取るとその手に乗せた。どーもと軽い調子で受け取るとあっさり引っ込んで足音が遠ざかっていく。
へなへなと私はその場に座り込んで、がっくりと肩を落とす。