弱点
誰しも苦手なものがある。虫が苦手とか男の人か色々です。僕の苦手なモノは乱暴な事です。僕が弱いからじゃなくて、誰かが傷つくのがいやなんです。だから僕の小説は必ずハッピーエンドで終らせている。
「マスター?」
ファーリングがこちらを向いて聞いてきた。
「何?」
「いえ、先ほどからパソコンの画面を見つめているのでどうしたのか気になって。」
「あぁ、小説のネタが思いつかないから先に進まないんだ。」
「どういう話を書いてるんですか?」
「前に書いてたのは完成したから今度は日陰の少年と太陽の少女ってタイトルの小説でも書いてみようかと思ってるんだ。」
「引きこもりのお話ですか?」とファーリングはパソコンの画面を見た。
「うん。最初は普通の学生だった主人公はある日の事件を境に引きこもりになってしまうんだ。そして、いつも家に閉じこもっているんだ。本が大好きだからいつも本を読んでいるんだ。でも、暗い部屋で、本ばかり読んでいるから目は悪くなってるから眼鏡をかけてるんだ。そして、その部屋をノックするのは一人の少女。その女の子は主人公のクラスメートの子で主人公に出てきてもらおうとするんだ。」
「そこから話がはじまるわけですね。」
「うん。でも、主人公は、決して出ようとしないんだ。主人公は“現実世界の人は裏切るから怖いんだ”と言って部屋から出てこないんだ。だから、少女は頑張って主人公を部屋からだそうとするんだ。」
「おもしろそうですね。」
「うん。僕も書いていてそうおもえてるんだけどね。」
「今考えている筋はどの辺ですか?」
「うん、少年にとって少女は太陽で少年は日陰。日陰は太陽があって出来るけど太陽の光を浴びることは無いから少年にとって少女は眩しすぎるんだ。でも、太陽って暖かいでしょ?でも、太陽って日のあたる所以外も温めてくれるよね。だから日陰の少年も太陽の暖かさを感じて部屋から出てくる物語にしようと思ってるんだ。」
「面白そうな話だな。」と窓から入ってきた葵ちゃんが言った。
「ありがと。」と僕は言った。
「実際は何処まで出来ているんだ?」
「う~ん、だけど、まだ、一章分しか出来てないんだよ。主人公が引きこもっている所に少女が来て部屋のドアをノックする所までしかね。」
「それで十分だろ。印刷して見せてくれないかい?最近読む本が無くて困っているんだ。ゆかちゃんの書いた小説を読んでみたい気もするし。」と葵ちゃんが言った。
僕は印刷する事にした。そして、出てきた紙を本の形にまとめてから渡した。
「ありがとう。」
「葵さん、私も一緒に読んでいいですか?」
「あぁ、構わないぞ。」
僕は再びパソコンに向き直った。そして、小説を書いていて一つのネタが思いついた。
「ねぇ、葵ちゃんの苦手なモノってある?」
「ボクの苦手なモノか?」
「うん。虫とか人ごみとか。」
「そうだな。電子系統が苦手かな。」
「つまり、機械音痴って事?」
「そうだな。電子レンジとかも使い方が良く解らないんだ。ボタンが多すぎて。」
「あぁ、そうなんだ。じゃあ、冷えた物は温められないんじゃない?」
「まぁ、そうなのだが、ご飯はゆかちゃんのいえで食べているから問題ないしコンビニでも温めてくれる。」と葵ちゃんは言った。
「マスターは何が苦手なのですか?」
「そうだな。」と僕が考えていると葵ちゃんが言った。
「男らしい事だろうな。」
「どういう事ですか?」とファーリングは聞いた。
「ゆかちゃんは、炊事・洗濯・掃除と家事全般は出来るが、男手が必要となる力仕事はむいていない。」
「つまりは、力がないんだ。だから、暴力も嫌いなのかな?」
「そうだな。しかし、そういう意味ではゆかちゃんは非常に優しい人間だな。」
「じゃあ、会長は?」
「あ、あれは、あれで優しいと思うぞ。人を思う気持ちは一途だし。」と葵ちゃんは頬をかきながら言った。
「ファーリングは何かある?」
ファーリングは少し首を傾げながら言った。
「人の気持ちを理解するのは苦手です。」
「あぁ、それはどういう意味でだい?」
葵ちゃんは半分理解したように聞いた。
「私の感情プログラムでは理解できないモノがいくつか存在します。例えば、このマスターの小説でいうなら、この文章です。」
ファーリングが指を指した場所にはこう書いてあった。
“ノックの音がまた聞こえた。まだ、あの子は扉の前に居るのか。
「帰ってくれって言ったでしょ。僕に笑顔なんていらないから帰ってよ。」
「そんな言葉を聞いたのは生まれてこの方聞いた事がなかったよ。笑顔の要らない人間なんているわけがないんだよ。あれ?どうしてなの?なんで、私は泣きそうなの?」
「おいおい、君が泣いちゃ意味が無いだろ。泣きたいのは僕の方なんだよ。お願いだからもう帰ってよ。僕は誰とも会いたくないんだから。」と泣きながら言った。僕に優しくしないでよ。また、期待しちゃうから。もう、傷つくのは嫌なんだ。“
「どうして、主人公はないているのですか?何が悲しいのですか?」
「違うよ。これは嬉しいんだよ。」と葵ちゃんが言った。
「嬉しいのに涙を流すのですか?」
「さぁ?ファーリングもその気持ちはわかるんじゃないの?」と僕は言った。ファーリングはわかってはいるけれどそれを上手く言語化できないと言う顔をしていた。
「無理にしようとしなくていいんだよ。」と僕は言った。ファーリングは頷いてから本に目を戻した。
「ただいま~。」と一美ちゃんが帰ってきた。
「あ、一美ちゃん、おかえり。」
「あれ?それってお兄ちゃんの小説?」
「そうだよ。」
「へぇ、新作だね。」
「いや、作成中なんだ。完成した新作はこっちの方だよ。」
「読んでいい?」
「勿論。はい、どうぞ。」
「ありがと。」
「そうだ、一美ちゃんにも聞いてみよう。」「何?」
「一美ちゃんの苦手なモノって何?」
「えっと、虫かな。」
「なるほどね。じゃぁ、夏場とかは困るのかな?」
「うん。セミがいっぱい居るからね。一匹とかならいいけど何匹も止まってると気持ち悪くて。それに色とか顔とかもあまりいい感じじゃないし。」
「なるほどね。」
「そういえば、ギンは勉強が苦手だとして会長の苦手なモノってあるのかな?」と葵ちゃんが言った。確かに、あの人は完全無欠な気がする。
「なんだろう?」
僕らは首を傾げた。
あら?私の苦手なモノを知りたいの?
「お嬢様、そろそろお時間です。」
「そう。」
私の苦手なモノは普通かしら。え?どうして普通が苦手なのかって?だって、普通って言うのは珍しくない事。ほかと比べて特に変わらない事って意味でしょ?そんなのってただの機械じゃない。私は特別な存在でありたいし特殊な存在で居たい。勿論、普通が悪いわけじゃない。でも、少し考えみれば、これが私に取っての普通なのよ。だから、貴方の普通が普通とは限らない。でも、その人の中ではソレが普通と言う存在の中にいる。常識なんてそんなモノなのよ。当てになるかなんてその人しだいでいくらでも同にでもなるの。だから、私は特別で居たいの。つまり、苦手なのは普通よ。他の女と比べても同じじゃその人よりも特別な存在になりたいの。少し傲慢かしら?
「お嬢様?どうしたのですか?」
「いえ、少し自分の考え方に笑ってしまってね。」
「そうですか。それでは車の方に。パーティーに遅れてしまいます。」
「パーティーと言っても金の亡者が集まって自分達の財力の見せつけあいでしょ?」
「しかし、天音家の人間としては、それも修行の一環かと。」
「そうね。そう思う事にするわ。柳沢も、詭弁が回るようになったわね。」
「皮肉のおつもりですかな?」
「いえ、遠回しではなくて直接的に言っているので文句よ。」
2人とも考えがおかしくて笑ってしまった。こんな異常な事が私は大好きだ。勿論、ギン君も今までに無い異常を見せてくれたから、私を誰よりも特別にしてくれている彼が大好きだ。
「それじゃ、いきましょうか。」と私は車に乗り込んだ。




