幼馴染にいじめられる夢を見た私は最低だ
紅葉はとても優しい。
私にだけじゃなくみんなに対して。
ふわふわしてる感じの性格でいつも柔らかい笑みを浮かべている。
だからおかしい。
今日見た夢で信じられないことが起きていた。
普段どんな夢を見ても具体的な内容は覚えていない。
今回は違う。はっきりと覚えている。
それだけ衝撃的であった。
なぜか紅葉は私の顔を足で踏みつけたり、ロープで首を縛ったりしてきた。
それだけに留まらず、私にひどい言葉をたくさんぶつけてきた。
情けない姿だねとか、奴隷らしくしなよとか、他にも口に出したくないような言葉も……
いつもの紅葉と全く違って、怖いとか悲しいとかよりも驚きが強かった。
起きてからも、変な感覚であった。
もちろん私はSMとかはよく分からないし、いじめたいともいじめられたいとも思ったことはない。
こんな夢を見てしまって申し訳ないと言う気持ちが強くあった。
時間は止まらないので、いつも通り学校に向かった。
相変わらずあの子は朝早く学校に来ている。
水石紅葉。性格は穏やかで誰に対しても優しい。
性格が反映されたような、ふわふわサラサラの髪の毛で遠くから見ても輝いているように見えてしまう。
だが今日はそれだけじゃない。
なぜか夢で見た紅葉と現実の紅葉が混ざって見えてしまい、今にも罵倒してきそうで身構えていた。
「あれ? 絢音どうしたのそんなところで。 教室入らないの?」
「紅葉に気づかれないように入ろうと思ってたんだけど、無理だったか!」
笑って嘘をついて誤魔化しながら席についた。
今日の紅葉は直視できない。
惚れてしまってとか、輝いてとか、少女漫画のような意味ではない。
なんかゾワゾワしてしまう。
当然違和感は幼馴染にはすぐ伝わってしまう。
「なんか今日の絢音変だよ〜! 何かあった?」
明らかな挙動不審の私に歩み寄ってくる紅葉はいつもの紅葉であった。
そんなことは当たり前である。
夢で見たことが現実で起こることはあるかもしれないが、幼馴染の人格を変えてしまうような効果はない。
「確かにちょっと具合悪いかも」
また嘘をついてしまった。
「保健室連れて行こうか?」
「1人で行けるよ! ありがとう!」
「お大事にね」
紅葉の顔も見ずに教室を出た。
そのまま保健室に駆け込んで、嘘を重ねて帰宅することに成功した。
早退したことはあるが、朝のHR前に嘘をついて早退なんてしたことない。
終わった。私の優等生ライフが……
私、千華絢音は運動もスポーツもなんでもできて、生徒会長もやっていて自分から見ても他人から見ても完璧である。
完璧である、はずであった……
家に帰ったらお母さんに怪しまれてしまう。
けどこのままどこかに行ったとしても補導されてしまう。
そんな風に思っていると、お母さんからLINEが来ていた。
まさか仮病で早退がバレたんじゃ、と思ったが違った。
仕事の関係で今から出張に行くというものであった。
私にとっては好都合だ。
家の前に着いた。
自転車がなかったため、もう行ったと確信し家に入った。
もちろん誰もいなかったため、すぐに服を着替え、気晴らしに映画を見に行くことにした。
見たい映画がある訳ではなかったが、映画を見ることが好きであったため定期的に行っている。
平日は人が少ないため、広々としていて居心地が良くて好きだ。
今日もそこまで人の出入りがある訳ではなさそうだ。
「何みよっかな〜」
宣伝ポスターを眺めていると、1つだけ嫌でも目に入ってしまうポスターがあった。
アニメ映画で、タイトルは"いじめられるほど感じる愛"というものであった。
私は紅葉に狂わされてしまったんだろうか?
それは紅葉に失礼だ。
勝手に一人で狂っているのだから。
それにしてもあの夢1回だけで、ここまで気になってしまうのは私に元々のポテンシャルがあるのではないかと思うほどであった。
ネット上で題名を打ち、予告や前提知識などを調べた。
R18作品ではないそうだから内容は問題ないかなと思い、チケットを購入した。
買ってしまった。
昨日の私ならありえない選択だった。
仮病早退も、ちょっと怪しげな映画のチケットも。
映画上映まで後40分ある。
何して時間潰そうと考えていると、紅葉からLINEが届いていた。
「絢音体調大丈夫〜? 無事家まで帰れた?」
私は罪悪感に苛まれた。
「うん! 大丈夫だよ!」
もちろん大丈夫だ。大丈夫でないのは私の頭の中だけである。
すぐに既読がついた。
昼前だからまだ授業中のはずだ。
「良かった安心!」
「今授業中じゃないの?」
紅葉の優しさに心が痛むのを誤魔化すように、私は尋ねた。
「実は……私も早退しちゃった!」
え?
私は今きっとまぬけな顔をしているだろう。
元気にしか見えなかった紅葉が早退するのは意味が分からなかった。
私と同じく紅葉も普段そんなことしない。
「具合悪くなったの? 大丈夫?」
この状況に対する定石のような聞き方をした。
「ううん! 仮病!」
よく分からないことになってきた。
「え、仮病? 珍しいね」
あたかも私は違いますと言うようにメッセージを送った。
「絢音もね!」
そう一言と、変なキャラが爆笑しているようなスタンプが送られてきた。
バレていた。当たり前か。
伊達に16年間幼馴染やってないわけだ。
「今本当に家にいるの?」
なんでもお見通しというわけだ。
「映画見にきてます……」
「誰と?」
誰と見に行っているか気になるんだ、と疑問に思った。
「1人だけどどうして?」
「私を誘ってくれれば良かったのにと思って!」
急にどうしたんだろう。
夢のせいで私が変に考えすぎているだけか、いつもと違う紅葉のように感じられた。
「ごめん、今度誘うね」
「うん! そういえばなんの映画見るの?」
絶対聞かれると思っていた。
正直に言える訳ない。
「海外のホラー映画!」
また適当言ってしまった。けどこればっかりは仕方ない。
そう自分に言い聞かせていた。
「そうなんだ! ホラー好きだったんだ! 楽しんで!」
別に私はホラーなどで好きじゃないし、むしろ苦手である。
「ありがとう!」
いつの間にか上映10分前になっていた。
映画の時はコーラとポップコーンと決めているため、早めに買わなければならない。
しかし今日は平日なので空いていた。
コーラとポップコーンを慎重に運びながら、スクリーン4に入った。
中に何人か人はいたが、やはり空いていた。
女性のお客さんがほとんどのようであった。
時間になると広告が流れ出した。
私はこの時間を含めて映画を楽しんでいる。
お馴染みのキャラクターの注意喚起や、さまざまな映画の予告など本編以外で楽しめるためお得に感じていた。
予告で見た大まかな本編のストーリーとしては、高校1年生の鈴香が高校3年生の茜をいじめるというものである。
いじめと言っても、学校で問題となるようなものではなく2人きりの空間でお互いがそれを求め合うというなんとも歪で、ドロドロなお話だ。
あっという間に広告パートは終わり、電気が消え、スクリーンに集中した。
私と鈴香は特殊な関係だ。
学校では学年も違うため関わることはない。
しかし放課後になると決まっていつも私と鈴香は廃墟の2階に向かう。
この関係は私が3年になった時。
つまり、鈴香が入学してきてからだ。
私はいじめられていた。成績がいいという理由だけで。
トイレで水をかけられたり、お弁当を捨てられたりしていた。
そこに鈴香が現れて、その場面を動画に収めたのだ。
もちろん私をいじめていた人達は力尽くでスマホを奪おうとしたが、鈴香は国会議員の娘だと宣言し、いつでも人生を終わらせられると脅した。
その日からいじめられることは無くなった。
ただ1人鈴香を除いて。
しかし鈴香は私を脅したりなどはしなかった。
最初に1回ただ、助けたお礼に1つお願い聞いてと言っただけだった。
今日1日だけでいいから奴隷になってというお願いだった。
意味が分からなかったが、地獄のようないじめを終わらせてくれた訳だから従った。
なぜかそこに向かうまで手を繋がれた。しかも恋人繋ぎ。
着いたのは一通りの少ない道を歩いたところにある廃墟で、2階に上がった。
なぜか綺麗に片付けられた空間だった。
着くとすぐにニヤニヤしながら鈴香が口を開いた。
「これつけて!」
渡されたのは、首輪だった。
年下の子に助けてもらったんだからと、今日は覚悟を決めていた。
嫌がりもせず、素直につけた。
なんだか鈴香は不機嫌そうに見えた。
そのまま次の命令が来た。
「ワンちゃんだから首輪つけてる時はしゃべるのはワンだけで、四足歩行で過ごしてね?」
たまらなく恥ずかしかった。しかし従った。
「ワン!」
鈴香に見下ろされて心臓の鼓動が早くなった。
鈴香はそこから目線を合わせるように、しゃがんで来て目の前に顔が近づいた。
そしておでこや、鼻に温かい感触を覚えた。
鈴香の舌であった。
しかし嫌な気分がしなかった。
私はそれを求めるように
「ワン!」
と言って、舌を出した。
しかしそこで鈴香はやめた。
首輪も解かれ、ただ別れを告げられた。
「元気でね、茜先輩!」
人扱いに戻っていた。
これが私と鈴香の最初の出会いと、今の関係の始まり方である。
私は感覚がおかしくなっていた。
同級生から受けたいじめは不快そのものだった。
鈴香から受けるそれは、いじめと言っていいものかは分からないがすごく気持ちの良いものであった。
次の日約束とか、命令とかされた訳ではないが、足が自然と廃墟に向かっていた。
私を待っていた訳ではないだろうが、鈴香が読書をしていた。
「あれ? 茜先輩なんで来たの! もしかして!!」
そう言うと鈴香は首輪を私につけてきた。
「そっかあ、もうこれやめれなくなっちゃったんだ?」
「ワン!」
「えらいね〜」
そう言いながら、鈴香は手のひらを出してきた。
当然初めて直面することではあるが、細胞が理解しているかのように私は手のひらを舐めた。
もしかしたら前世は犬なのかもしれない。
そう思うほど私の体は素直に動いた。
「ワンちゃんにこんな沢山の服必要ないよね?」
私は焦った。何をされるのだろう。
鈴香が近寄ってきて、ブラウスのボタンを1つずつ外してきた。
これは想定していなかった。
あっという間に全てのボタンが外された。
「はいバンザ〜イ」
そう言いながらインナーも脱がされた。
私はスカートと上半身は下着だけになってしまった。
ここは廃墟で誰も来ないと思うが、外でこんな格好をしている事実に恥ずかしくなった。
私の表情を見て、鈴香は手を止めた。
私の限界を測っているように見えた。
この子は歪なだけで優しいのかなと思った。
歪な関係がどんどんエスカレートしていき、夏休みを迎えたところで終わった。
映画が終わり、人が少ない時に1人で見にきて良かったと思った。
見てはいないが、自分の顔は真っ赤っかになっていることは分かる。
昨日の夢と合わさって、私の脳内は完全にその気になってしまった。
「茜ちゃん、すごい表情だったな……」
状況は違えど、自分と重ねて見ていたため、すごく熱がこもった表情に羨ましさを覚えていた。
そんな余韻を感じながら、熱が冷めるのを待ち外に出た。
機内モードを解除するとLINEが溜まっていた。
「映画終わったら教えて〜!」
ピン留めしているため、紅葉のメッセージが一番に見えた。
「見終わったよ〜!」
待っていたかのようにすぐ既読がついた。
「どう? 怖かった?」
そうだった、そういえばホラー映画と言ったんだった。
「怖いなんてもんじゃないよ! ゾクゾクゾワゾワした」
嘘ではない、あれは怖いなんかよりもすごい感情であった。
「なんかすごそうだね!」
「本当にすごかったよ」
「そういえば」
来たか、何か本題があると思っていた。
いつもの紅葉はここまでLINEを見ない。
「今日絢音の家に泊まっていい?」
どう言うことか意味が分からない。
今までお泊まりするとしても次の日が土日の時だけであった。
しかし明日も学校がある。
「急だね、何かあった?」
「絢音のお母さん今日いないんでしょ?」
そう言うことか、親経由で連絡いっていたか。
父親は長期出張でいなく、母親も出張に行っていたため、確かに今日は誰もいなかった。
「私が1人だから泊まりに来るってこと?」
「寂しいかなと思って!」
いつもなら多分なんとも思わない。
今は夢と映画の影響でおかしくなっている。
「18時からでも大丈夫?」
一旦頭を冷やすための時間が必要だと思いそう伝えた。
「分かった〜! また後で!」
映画の余韻がまだ残っている中、紅葉からの突然のお泊りの誘いは私の頭をさらに変にしてしまった。
あり得ないと思いつつも、紅葉が首輪を持ってきたらどうしようと思うほど頭が混乱していた。
「とりあえず頭冷やさないと……」
そう考え、ショッピングセンター内にあるアイス屋さんで、2種類の味を頼んでカップで受け取った。
抹茶味と、キャラメル味にした。
「ひんやり甘くて美味しい!」
久しぶりにお店のアイスを食べたが格別に美味しかった。
今度は紅葉と来ようと思った。
あっという間に17時になってしまった。
家には30分ほどで着く。
部屋の中が散らかっているため、早く帰って片付けないといけない。
思春期の男子のように見られたら困るような物は何もなかったが、紅葉に散らかった部屋は見られたくなかった。
思ったより早くつき、紅葉が来るまで後40分あった。
「早く片付けないと!」
散らかっていると思っていたが、ひどい時に比べたらマシなレベルであった。
ただ勉強道具や、洗濯が終わった服などが散乱していて収納に時間がかかりそうである。
「これでラスト!」
最後の服をクローゼットに入れた。
それと同時にインターホンが鳴った。
これまで片付けに集中していたが、その単調な音で一気に緊張してきた。
あんな夢を見て、あんな映画を観た後に、当の本人が家に泊まるのだ。
しかしあれは私の頭の中で完結された夢なわけで、紅葉は知ったこっちゃない。
「早かったね紅葉!」
そう出迎えると紅葉の片手にはお洒落な袋がぶら下がっていた。
「早く会いたくて! あ、おみあげ買ってきたよ!」
それは私が食べたい食べたいと言っていた、銀座にある期間限定のフルーツタルトであった。
1ピースあたり1600円もする高級タルトである。
「紅葉〜! ありがとう!」
私は早く会いたいという言葉と、私が欲した高級タルトを買ってきたという事実が嬉しく抱きついてしまった。
幼馴染であったが、抱きついたり、手を繋いだりなどはした事がなかった。
しかし夢と映画の影響で勢いでしてしまったのである。
「絢音やっぱ今日いつもと違うよ! 何かあった?」
案の定悟られてしまった。
明らかに今日の私がおかしいのは自覚している。
「とりあえず中入ろ」
「うん! お邪魔します」
「私しかいないからくつろいでいいよ!」
「2人だけでお泊まりは初めてだね!」
家族がいる時にしかお泊まりをしたことがなかったため、なんだか新鮮だ。
私の部屋に案内した。
「絢音の部屋っていつきても綺麗だよね! 流石だよ」
さっきまで散らかっていたとは、口が裂けても言えない。
「ありがとう!」
紅葉はニコニコと私の方を見ていた。
その笑顔の意味を考えようとしてしまうほど緊張していた。
「ねえ何があったの? 怖いことでもあった? それとも嬉しいこと?」
紅葉は知ってて聞いているんだろうか、知らなくて聞いているんだろうか。
当然知っているはずがないため後者だと思っている。
正直私の今の心はわからない。
紅葉にどうして欲しいのか。何を求めるのか。
今いるここは夢ではなく現実である。
幼馴染という関係がそんな簡単に壊れる物だとは思わないが、そうなってからでは取り返しがつかない。
慎重に行動を選択しなければならない。
「なんだと思う?」
私は誤魔化すように口角を上げて逆質問をした。
これでは何かあったことは認めたようなものだ。
「——彼氏でもできた、とか?」
予想外の質問であった。
そしてなんだか、か細い声に聞こえた。
「彼氏? ないない! そんなのできないよ!」
「そっか!」
紅葉は元気を取り戻したように返事をした。
そして2回目の挑戦をしようと頭を悩ませていた。
数秒の沈黙を経て口を開いた。
「——好きな人、できた?」
さっきの質問と似たようで違う問いかけに焦った。
好きという二文字が私はわからなくなっていた。
幼馴染として紅葉は大好きだ。一番と言ってもいい。
しかしここでの好きはきっとそういう意味ではない。
私は答えられずにいた。
すると紅葉は追加の質問をしてきた。
「——男の子と女の子だとどっちが好き?」
意味がわからない。
なんの意図があっての質問なんだろうか。
「それって、どういう……意味?」
恐る恐る聞いてしまった。
お互い手が届かないような距離にいたが、それを詰めるように近づいてきた。
そしてなぜか私の手に紅葉の手を重ねてきた。
「私は絢音のことが好きだよ?」
この子は何を言っている?
それはどんな意味での好きかは聞く度胸がない。
そんなことを考えていると、重ねていた紅葉の指が私の指の隙間に入ってきた。
手を繋いだことがないため分からなかったが、見た目よりも繊細で、今にも壊れてしまいそうな細さをしていた。
「もみじ……どうしたの?」
だんだん私の体が熱を帯びてきた。
指を伝導材として、それが紅葉にも伝わった。
「もうわかってるでしょ? 絢音の口から聞かせて?」
紅葉の熱で頭がくらくらとして、正常な判断ができなくなった。
「わかったよ! 私を紅葉の奴隷にして!」
内にあるもの全てをぶちまけてしまった。
紅葉の顔を見ることができない。
「絢音?」
紅葉は優しく私に寄り添ってきた。
紅葉の方を向くと少し驚いた表情をしていた。
紅葉は単に私のことを恋愛対象として見ていただけに違いない。
私も紅葉のことが好き。きっとこんな言葉を待っていたんだろう。
「紅葉は私のこと嫌いになった?」
「どうして? 私は昔から絢音のことが好きだよ! 恋愛的な意味で!」
そんなことは知らない。ずっと一緒にいても気づけなかった。
あんな一言を言わなければ、幼馴染から恋人になれたんだろうか。
別にいじめられなくても、恋人になって愛を感じられるだろう。
「変なこと言ってごめんね。忘れて」
私は冷めたように言ってしまった。
しかしそんな私を紅葉が引き寄せた。
「絢音はどうしたい? どうなりたい?」
紅葉の優しさに私は泣き出し、夢で見たこと、映画で見たこと全てを吐き出した。
意外にも、紅葉は驚かず、寧ろ嬉しそうに見えた。
「なんか、嬉しそう?」
思わず聞いてしまった。
「もちろん嬉しいよ! 絢音が夢でも私のこと考えてるんだから嬉しくないはずがないじゃん!」
その言葉で一気に気持ちが晴れた。ただただ嬉しかった。
そんな雰囲気が吹き飛ぶほどのことを紅葉が言い出した。
「いじめられるほど感じる愛って映画見たんだよね? あれ原作者私だよ?」
頭で情報を処理しきれなかった。
原作者は私。原作者は私。
そう頭の中で響いていた。そしてやっと処理できた。
つまり、あの映画は紅葉が作ったというわけだ。
「あれ、紅葉の作品なの?」
「えへへ、実はね!」
私の頭の中でいろんな考えが飛び交った。
あれは一種の創作として。もしくは紅葉が望む愛の形。
考え出したらキリがない。
そんな考えを消し飛ばすように、紅葉は口を開いた。
「絢音はどうなりたい?」
私にはもうこの言葉の意味がわかる。
「どんなことでも驚きも否定もせず受け止めるよ? 好きな人だから」
紅葉は待っていた。待ってくれていた。
私より勇気あるのはきっと紅葉であった。
それを無碍にできない。
「紅葉の彼女になりたいです」
紅葉は嬉しそうに微笑んだ。
しかし、そんなことじゃないでしょと言わんばかりに質問を続けた。
「1番の望みを言って?」
もう濁すには限界だ。
「——映画みたいに、なりたいです……」
もう始まってしまったかのように質問攻めをされていた。
「どっち側?」
「ワンちゃん……」
紅葉は頬を赤くし、今まで見た中で一番嬉しそうな顔をしていた。
もちろん2人とも首輪などは持っていなかった。
しかし首輪なんかよりも強力な拘束具を私に縛りつけた。
それは言葉である。
「絢音は今から私の質問にはいと分かりました以外で答えちゃダメだよ?」
「分かりました」
「じゃあ私トイレ行っているからいつもの制服に着替えて待ってて」
そう言うと私の返事を待たずに部屋から出ていってしまった。
なぜ急に制服と思ったが、映画のおかげで理解できた。
制服を着て紅葉の奴隷になる方が、背徳感があるんだ。
そう考え、紅葉が来る前に急いで着替えを終わらせた。
「偉いね。こっちにおいで?」
「はい」
言われるままに、紅葉の隣に座った。
そして紅葉は無言で私の口の前に人差し指を持ってきた。
流れがわかっているかのように体は動いた。
紅葉の人差し指に私の舌が絡んだ。
「可愛いね、絢音」
「んっ……あっ——」
いじめられているのか愛を受けているのか分からない。
けどただただ心地よかった。
ただひたすら赤子のように指を咥えている私を紅葉は優しく撫でてくれた。
紅葉が指を私の口から抜いた。
そして急に紅葉が上に着ていた可愛いドット柄の服を脱ぎ捨てた。
そこには私よりも少し大きな胸を覆う布のみが存在していた。
次の命令が来た。
「私の汚い部分を綺麗にして?」
あまり意味が理解できなかった。
紅葉に汚い部分などはない。
分からずにじっとしていると、紅葉が私の顔を強引にお腹まで引き寄せた。
ちょうど口元には、紅葉のきれいで縦長なおへそがあった。
汚くなんてない。そう思っていたが、きっと紅葉は求めている。
そう思い、舌を出した。
下の先に少しざらざらとしたような感覚と、少し甘酸っぱいような香りが鼻を抜けた。
それが少し癖になり、本当に犬になったかのように綺麗にしようとした。
紅葉は顔を赤く染め、苦しそうな声をあげていた。
これでは私がいじめているみたいと思ってしまう。
私は舌をおへそから脇になぞるように移した。
紅葉は体を震わせていた。
命令に従っているが、もはや立場が逆転しているように見えた。
こっち側も悪くない。そう思ってしまう。
「うぅ……ダメだよ、絢音——そんなのっ……」
すっかり立場が変わってしまった。
「紅葉、同じように私にも、して?」
決められた返事以外をしたため、これは命令違反である。
しかし、そんなこと紅葉は考えられなくなっていた。
「分かりました……」
そう言うと紅葉は私のブラウスのボタンを1つずつ外していった。
その下には胸を隠す1枚の布のみであった。
しかし紅葉はそれすらも外してしまった。
「ちょ、ちょっと……紅葉?」
腕を掴み止めようとしたが紅葉の熱を感じ、私は手を止めてしまった。
そして紅葉は私がしたのと同じように再現した。
しかし脇を綺麗にした後、紅葉の舌は私の膨らみの先端に向かった。
「んっ……ちょ、紅葉……」
紅葉は止まらなかった。
紅葉の強引さに誘発され、私は紅葉が身につけていたもの全てを剥ぎ取った。
そして私と紅葉は互いの肌の温かさを感じ、内側の温かさも覚えた。
小鳥の声と共に私は起きた。
隣には、紅葉が素肌の上にシーツ1枚をかけ眠っていた。
少し筋肉痛があった。
昨日の事は夢ではない。それがたまらなく嬉しかった。
私と紅葉は正式に恋人になったのである。
昨日は盛り上がってしまい、夜ご飯を食べる事なく寝てしまったためお腹が減っていた。
「紅葉が起きる前に朝ごはん作ろっと!」
彼女との初めての朝を最高のものにするため朝食を作った。
オムレツ、ちょっとしたサラダ、ベーコンにお味噌汁。
健康も意識して作った。
「おはよ〜絢音」
紅葉が起きてきた。
なんだか顔を合わせるだけで照れてしまう。
「おはよ! 朝食作っておいたよ!」
「え〜すごい美味しそう! ありがとう!」
洗顔や歯磨きをした後、朝食を食べ終えた。
シャワーは交互に入り昨日の汗を流し、学校に行く準備をした。
「紅葉の家に寄ってそのまま学校行こっか!」
「うん!」
紅葉の家に行き、制服や荷物を確保して、2人で仲良く学校に向かった。
私と紅葉の初めての1日は終わったが、恋人として、これからも続いていく。
そして、主従関係も強まっていった。




