3話 春子 三
私は春子を初めて見た瞬間、ああ、まただ・・・と思った。
朝から嫌なものを見てしまったと・・・。
春子はそのとき、肩におじいさんを乗せていた。
様子を見る限り、悪さをする霊ではないようだが、入学式の朝から霊を見て、あまり気分が良いものではない。
私はおそらく、うんざりしている顔をしていたと思うのだが、春子は私の姿を見て、心底ほっとしているような顔をした。
「あの、白百合学園の方ですよね。私道に迷っちゃって・・・。よかったら一緒に行ってくれませんか?」
紺のブレザーにプリーツスカート、白いブラウスに赤いリボン。
同じ真新しい制服の私を見て、ほっとしたようだった。
「ええ。別にかまわないけど・・・」
「良かったぁ。私、すっごく方向音痴で・・・」
春子は、何故道に迷ったのかを、身振り手振りを交えて一生懸命に話し始めた。
受験の際は、友人と一緒だったので、行も帰りも友人に頼りっぱなしだったらしい。
友人たちは他の学校に進学したが、春子は白百合学園が第一志望だったから、結局入学したのは春子だけ。
不安を抱えながら電車に乗り、よく似た制服の女子が電車を降りたので、つられて降りてしまったが、それは一つ前の駅だった。
ミスに気付いた時は、駅からずいぶんと離れていて、今から駅に戻るよりも、このまま高校まで歩いたほうが早いと思って、道行く人に聞きながらここまで歩いて来たそうだ。
もう、不安で不安で仕方なくて、私を見つけたときは、まるで女神さまに見えたと言った。
お互いに軽い自己紹介をしながら学校まで一緒に歩き、クラス分けの貼り紙を見たら、偶然にも同じクラスで、春子はとても喜んだ。
「良かったぁ。緋ノ江さんと同じクラスだぁ。」
手をたたいて喜ぶ姿は、なかなか可愛らしい。
「私、ほっとしたからかなぁ。なんだか肩が凝っていることに、今気が付いたわ。」
そりゃそうでしょ。
だって、あなたの肩には、ずっとおじいさんが乗っているんだもの。
ずいぶんおじいさんに気に入られているようで、このままだったら、家にまで憑いて来そうだと思ったから、私は霊と交渉してあげることにした。
交渉すると言っても、私は人間の姿でいるときは、直接霊と話せない。
魂を身体から離さなければならないのだ。




