11話 廃病院 三
私は魂となって、自分の身体から抜け出した。
支えを失い私の身体がふらりと倒れそうになったのを、卓弥が支えている。
私は春子の後ろにいる女の霊に対面した。
ショートカットのその女の霊は、憎しみと悲しみで顔が酷く歪んでいる。
「憎い、憎い、寒くてたまらない・・・」
女の霊は、ボロボロと涙を流して泣いている。
「私はあなたを助けに来ました。何が憎くて、寒いのか教えてくれませんか?」
「今さら、もう遅いわ・・・。」
「でも、教えてくれたら、あなたの、無念を晴らしてあげられるかもしれません。」
「私は騙されたのよ。結婚するって言ってたのに、子どもができたら殺されて・・・、冷たい場所に放り込まれた。憎い憎い、あの人が憎い・・・愛していたのに・・・あの男はクズだった・・・。」
「まだ、あなたの身体は、その場所に置かれたままなのですね。」
「そうよ。」
「私があなたをその場所から助け出します。だから、場所を教えてください。」
「本当に助けてくれるの?」
「はい。」
「場所は・・・この廊下の一番奥の部屋・・・」
言い終わると、女の霊はふっと消えた。
私は自分の身体に戻って目を開けた。
「おい、緋ノ江、大丈夫か? 何かわかったのか?」
「わかったわ。」
裕太と春子に目をやると、春子は正気に戻っていて、裕太が「日向さん、大丈夫か?」と何度も心配して声を掛けている。
「一ツ橋くん、この廊下の一番奥の部屋に行きましょう。」
「えっ?なんで?」
私の突拍子もない申し出に、裕太はわけがわからないという顔をした。
「私の勘よ。春子が寒いって言ってたじゃない。きっとそこに何かあるのよ。」
「確か・・・この階の奥は・・・。」
「早く、そこに行きましょう。」
一番奥の部屋の前まで来て、その部屋が何であるのかわかった。
表示には冷凍室と書かれていた。
合い鍵を使って部屋の中に入ると、大きな冷凍室のドアがあり、そこから先は部屋全体が冷凍室になっている。
冷凍室のドアを開けるカギは、裕太の鍵束の中にあった。
ドアを開けると、冷凍室特有のひんやりとした冷気が肌を刺した。
「電気が通ってないのに、冷凍室は冷たいのね。」
「この病院は、停電したときに備えて、冷凍室と冷蔵室は自家発電で通電できるように作られているんだ。屋上にソーラーパネルがたくさんあったから、あれのお陰だな。」
冷凍室の中は、小さな倉庫のような作りで、左右に棚、一番奥には、開封厳禁と書かれた大きな段ボール箱が置かれていた。
ちょうど人が一人入れそうな大きさの段ボール箱が・・・。
中身の確認は卓弥にお願いした。
彼はお寺の息子だから、死体になれていると思ったから・・・。
その後、裕太は父親を現場に呼び出し、父親から警察へと連絡、翌日には世間を賑わす大きなニュースになった。
この病院の元院長の愛人が、子どもができたから責任をとって欲しいと病院に押しかけたら、元院長は、コーヒーに睡眠薬を混ぜて眠らせた後、207号室に運び、そこで筋弛緩剤を注射して殺害。
殺害後は、大きな段ボール箱に入れて冷凍室で保管。
夜中の誰にも見られない時間に、こっそりと運び出し、山の中に埋める計画であった。
しかし、その前に元院長の不正が発覚して警察に捕まったから、死体が入った段ボール箱は、そのまま放置されてしまった。
ニュース番組のゲストコメンテーターは、皆こぞって、元院長はクズだと罵っていたが、私も同じ気持ちだ。
殺された女性の無念が晴れて、これで成仏してくれたらいいのに・・・と願った。




