表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の器と嘘つきな皇太子  作者: ゆうきあさひ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/38

第7章 デルミア遠征 崖崩れと光  第1話

大地が裂けたあと、崩れた岩や土砂が一気に崖下に落ちていった。

エルフリーデの乗った馬車はかろうじて無事だったが、護衛のテオとオスカーの2人が巻き込まれてしまった。

レオナルトが帝都へ向けて馬を走らせた直後。

あたりには、崩落直後の異様な静けさが広がっていた。

湿った泥の匂い。

土煙がまだ空気に残り、斜面は不気味なほど静止している。

ふいに、胸の奥で記憶が裂ける。

テオの声は、いつも光を連れてきた。兵舎の子どもたちに木剣を教えながら、振り返って笑うその横顔――

弱気になりかける瞬間ほど、彼は明るくわたくしを照らした。――結婚を約束した幼馴染だっていたのに。


それにオスカーは、言葉より先に動く人だった。危険に最初に気づき、最後まで盾になる。馬具に触れる指の硬さも、その奥に潜む誠実さも、昨日の温度で思い出せる。


――その二人が、今、闇の底にいる。


崩れた土砂の向こう。呼べば届きそうで、同時に、永遠に失われるかもしれない距離。息が、喉の奥で固まった。


「……妃殿下、ここは危険です。団長の指示通り領主館へ戻りましょう」

ゲルトの声が掠れる。平静を装ったその裏に、焦燥が剥き出しになっていた。

常識は言う――諦めろ、と。希望は愚かだ――と。

だが、愚かで構わない。わずかな可能性でも掴む。そのために、生きている。置き去りにはできない。家族だから――。

土砂に埋まった斜面。崩れた直後の混乱で、二人が巻き込まれたのは確かだった。けれど、この旅で家族のように接してきた護衛達。

その一員として――エルフリーデは見捨てることができなかった。だが、常識ではどうにもならない。

数トンはある土砂の下に、人が生きたまま残っている可能性など……

「妃殿下……今、救助は無理です。救援を待つしか――」

ゲルトの言葉が終わるより早く。

エルの額が突然、焼けるような熱を持った。

「……っ」

耳鳴りがして、視界の色が変わる。

砂埃で真っ白だったはずの空気が、すっと澄んだようにクリアになった。

そのとき――

崖下で微かに動く青が見えた。

「……え?」

動くはずのない土砂の中で、近衛の青い袖が、かすかに震えていた。

「ゲルト!あそこ……あそこです!」

ゲルトも息をのむ。

「馬鹿な……!あの位置で生きているはずが……!」

だが、その次の瞬間。

エルフリーデは走り出そうとしていた。

「妃殿下!!」

ゲルトは不敬と知りながらも思わず、エルフリーデの腕を掴む。

「放して……あのままでは……死んでしまいます……!」

泣きそうな声。

叫ぶこともできないほど胸が苦しい。

危険だとわかっている。でも、止まらない。

助けたい。助けなきゃ。

その思いだけが身体を動かした。

崩れかけた斜面の端に膝をつき、届くはずもない距離へ手を伸ばす。

「お願い……返して……あの人たちを……!」

胸の奥が締め付けられるように痛む。涙がこみ上げる。

そして――

呼ばれた気がした。


──アルトリヒトの神の器よ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ