表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の器と嘘つきな皇太子  作者: ゆうきあさひ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/38

第6章 祈りが集まる夜-帝都の影  第1話 

ゼラニア使節団が帝都に到着してから三ヶ月――

冬の硬い空気が去り、春の光がようやく街の輪郭を和らげ始めた頃。


議会室には、散会後の静けさが満ちていた。

アレクシウスはひとり、整えられた資料に指を添え、微かな沈黙を味わっていた。

「殿下」

フィンツがそっと声をかける。

「エルフリーデ妃殿下の視察日程、デルミア側との調整が完了しました。三日後の出立となります」

「……そうか」

アレクは軽く息を吐き、椅子にもたれた。その表情は穏やかでありながら、どこか遠い。

「護衛の編成はどうなっている」

「レオナルト団長が主軸となります。妃殿下付きの近衛――ゲルト、テオ、オスカー、ルッツに一個小隊を随伴させます」

「レオ」

呼ばれたレオナルトが一歩前に出る。

「フリーデの専属は、近衛の主力四名だ。お前は安全確認の名目だが……実際は、私の代わりに盾となる」

フィンツが肩をすくめる。

「妃殿下の盾――ですね」

アレクシウスはその言葉を否定しようとはしなかった。

「……レオほど信用できる盾はいない」

レオは短く笑う。

「任せろ。あいつは、俺の妹だ。誰にも指一本触れさせない」

「ニコは皇城に残って、俺とゼラニアの相手を一緒に頼むぞ」

「あぁ、僕も頑張るよ」

ニコラウスは胸を軽く叩いてみせたが、すぐに少しだけ表情を曇らせた。

「……でもさ。正直に言うと、やっぱり俺、イザベラ王妹殿下は苦手だ」

「どうしてだ」

「兄さんに対して、距離の詰め方がいちいち計算づくなんだ。視線の向け方も、袖に触れるタイミングも、相談の持ちかけ方も――全部“偶然です”って顔をしてる。一度や二度なら気のせいで済ませるけど、あれは続けすぎだろ」

ニコラウスは小さく息を吐いた。

「……正直、ねちこい」

その横で、フィンツが何も言わず淡々とメモを取っている。

「それにさ」

ニコラウスは一瞬、言葉を選ぶように間を置いた。

「姉さんがいるのに、兄さんももっとはっきり線を引いていいはずだ。なのに、そうしない。――昔、強く出られなかった理由でもあるのか?」

アレクシウスはその問いを受け流すように、何も答えず立ち上がり、静かに椅子を押し戻した。

それ以上、言葉を交わすつもりはない――そう告げるような仕草だった。

背を向けたまま、わずかに歩みを進める。その途中で、ふと視線を落とした。

ニコラウスには見せなかったが、その一瞬だけ、アレクシウスの動きが止まる。胸の奥で、何かが小さく軋んだ。

 アレクシウスが視線を伏せたとき、春の陽光とは裏腹に胸中を冷やす影がひそんでいた。

(本当は、行かせたくない。だが――彼女の未来のためには必要な一歩だ)

「……デルミアの件は、本来なら“順調な帝国統治の証”でしかなかったはずだ」

 誰にともなく呟き、すぐにいつもの無表情に戻る。

「だが、盤上の駒が勝手に動くこともある。だからこそ、先を読んで把握しておく。──それだけだ」

 フィンツは、その言葉にうっすらと苦笑した。

(やれやれ……相変わらず、“天才”の言うことは難解ですね)

 しかし、その天才がこのあと“たったひと駒のために”冷静さを失うとは──

 この時は、まだ誰も知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ