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日本事変  作者: 莞爾
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反逆者

 令和20年1月4日、正月休みが明けた東京証券取引所は、開場前から異様な緊張感に包まれていた。皇室消失、政府機能の混乱、そして中国軍の“平和的進駐”――これらの衝撃的な出来事が、ついに市場に反映される日が来た。

 午前9時、鐘の音とともに取引が開始されると、日経平均株価は瞬時に2,000円以上の急落を記録。証券会社のディーリングルームでは、アナリストたちが顔を青ざめさせながらモニターに釘付けになっていた。

 「これはリーマンショック以上だ……」

 あるベテランディーラーが呟いた。

 特に打撃を受けたのは、インフラ、防衛、観光関連の銘柄だった。東京を中心とした都市部の混乱、福岡の政権交代、そして米国との安保条約の不透明化が、企業の将来性を根底から揺るがせていた。

 だが、この暴落の裏には、ある“仕掛け”が潜んでいた。年末から日本株の空売りポジションが大量に積み上げられていたことが、ロンドン経由のリーク情報で明らかになった。

 「彼らは知っていた。いや、仕組んでいた」

 匿名の金融筋はそう語った。

 空売りの対象は、三菱重工、NTTなど、日本の国家機能や通信・交通インフラに関わる企業が中心だった。特に、皇室関連の報道が出る直前にポジションが急増していたことから、事前に情報を得ていた可能性が高い。

 上海市場では、人民解放軍と関係の深い企業――中航工業、中国電子科技集団など――の株価が上昇。中国国内では「秩序の回復」として報じられた進駐が、経済的にも“勝利”として演出されていた。

 一方、為替市場では円が急落。ドル円は一時200円台に突入し、円売りが加速した。安全資産としての信頼が揺らいだ日本円は、国際市場での地位を急速に失いつつあった。

 「円消失」

 海外メディアはそう報じた。

 ニューヨーク証券取引所でも、日本関連のADR(米国預託証券)が軒並み暴落。トヨタ、ソニー、三菱UFJなどの主要企業は、信用不安から売りが殺到し、時価総額が一夜にして数兆円規模で失われた。

 その夜、IMF(国際通貨基金)は緊急声明を発表。

 「日本の政治的安定性の回復が、世界経済の安定に不可欠である」  同時に、G7各国の財務大臣がオンラインで緊急会合を開き、為替介入や市場安定化策について協議を開始した。

 東京では、国会前に集まった人たちが、紙を掲げて叫んでいた。

 「経済を守れ!政治は何をしている!」

 だが、政府機能は依然として混乱の中にあり、誰もその声に応える者はいなかった。

 市場は、国家の鏡である。そして今、鏡は、深くひび割れていた――混乱した市場が閉じた夕刻、その亀裂の一部は、遠く北京から仕掛けられただけではないことが官邸に伝わり、神谷総理を呆然とさせた。

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