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日本事変  作者: 莞爾
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3.不協和音


 夜明けが近づくとともに、関東地方に雪の気配が漂い始めていた。

 霞ヶ関では政府機能は混乱したままだった。

 神谷総理はよくもわるくも素人だった。一部の大衆の人気取りで野党第一党になり、そのまま与党と連立を総理になったのはよかったが、政策や外交は官僚に丸投げだった。

 そんな彼にできるのは、関係各所の官僚を呼び出して質問責めにして、最後には罵倒するだけだった。

 そんな中、外務省北米局の大島忠之が持ち込んだ情報で官邸はパニックに陥った。

 「それは本当なのか、大島くん」

 内閣官房の東條茂樹が訊いた。

 「側近からですが、大統領は日米安保の破棄検討を指示したそうです」

 神谷総理とその取り巻きは顔面蒼白となった。彼らはもともと、日米安保改定派だった。ただ、それは選挙対策であり、政権政党となった今、日米安保しか日本の外交で頼れるものは存在しないというのが一致した認識ではあったが、あれだけ条約や在日米軍を「みかじめ料」だとか「用心棒」だみたいに大衆に訴えてきた身としては、何もいえるはずもなかった。

 「絶対阻止してください」

 すがるようにいう総理に大島局長はあきれたように返した。

 「努力はしますが、官邸の方針が」

 全てがこのように堂々めぐりだった。

 そんな中、佐久間陸将補は密かに緊急時の首都脱出計画を進めていた。防衛省が保管する旧大日本帝国軍の地図が広げられ、南西へと延びるルートが赤鉛筆で示される――その先に、富士の裾野に眠る一つの廃屋があった。

 その頃、老人・斎藤蓮は、中央線の各駅停車に揺られながら多摩方面へと向かっていた。右手には例の図鑑と、包まれたままの手書きメモ。途中、駅で声をかけてきた少年に「これは、守らねばならぬ記憶だ」と呟き、図鑑の一部を見せると、少年の瞳に驚きと敬意が宿った。

 一方福岡では、「日本人民皇国」指導部の内部で小さな亀裂が走り始めていた。玉座の即位者である女性・“麗華”が、公安部に提出された反政府活動の資料の中に、自身の血縁に関する不確かな情報があることに気づき動揺する。その姿を見ていた側近の女官が、静かに囁いた。  「“血統”の正統性など、一時の支配に過ぎません。民の心こそ、帝の座に必要なものです」

 

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