1.震都
一日午後一時三十二分。霞ヶ関の空は濁った雲に覆われ、東京駅前の広場にいまだ硝煙の香りが漂っていた。複数の爆発が連鎖し、衝撃波は国会議事堂の窓までを震わせ、警視庁は緊急警戒レベルを最高度に引き上げたが、何をしてよいのかすら誰にも理解できていなかった。
総理大臣官邸では、防音ガラスを隔ててテレビモニターが断続的に揺れ、与党総裁・神谷泰正は額に冷たい汗を滲ませながら、次々と寄せられる報告に眉を曇らせていた。
翌日、事態が混乱を深める中で新たな報告が総理の元に上がった。
「これは示威か?それとも…」
彼の問いに誰も答えられなかった。
外では報道ヘリのローター音が刻一刻と近づき、モニター越しに映し出された映像には、博多港に人民解放軍の旗を掲げる揚陸艦の姿があった。湾岸に展開する装甲車両部隊、そして地上の市民の奔走――秩序はすでに名残のみ。
「日本への進駐などあり得ない。……だが、現実は想定を凌駕する」
官邸地下の危機対策室では、幕僚が急遽召集され、軍統合幕僚本部との回線が開かれた。だが、対応策は定まらない。神谷は震える手で通信機を握り、非公開の回線へ切り替えた。
「機密指定。人払い。とにかく、玉座の所在を最優先で確保せよ。まだ、終わっていないはずだ」
その声音はすでに、指導者としての威厳を失っていた。旧大本営の地下廊下を走る官僚たちの影は、昭和の幻影を彷彿とさせ、日本は再び戦時中であるという自覚の中で揺れ続けていた。
一方その頃、日本全域に人民軍の宣言があらゆる周波数、ネット回線を使って流された。
「日本は開放される。我々は秩序と再生をもたらす」