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第五十三作戦:鉄扇と鎌、夜闇の攻防

「むにゃむにゃ♪アタシが不死鳥の羽の新しい首領…よぉ…くぅ♪」


キィンッ!キィンッ!


アイルランドの夜は静まり返り、ホテルの室内は穏やかな暗闇に包まれていた。


ベッドではエルが仰向けになり、大口を開けて豪快に眠っている。寝返りを打つたび、毛布が床へ滑り落ち、鼻から漏れる規則的な寝息と寝言が室内に響いていた。


完全に無防備なその姿には、起きる兆しすら見られない。


「くぅ…くぅ…ひっひ♪」


しかし、その静けさとは対照的に、外では激しい金属音が響いていた。蝶々とラルデュナの激闘が続いていたのだ。


「ハァッ!貴様モ舞エ、蝶々。我ト舞ウ夜ヲ楽シムガヨイ!」


青白く輝く甲冑をまとったラルデュナは、大鎌を翻しながら宙を舞う。


その動きは優雅で、月明かりに照らされるたび、三日月のような軌跡を描いていた。


その見た目のエレガントさとは裏腹に、鎌の一撃一撃には圧倒的な殺意が込められている。


「…見た目だけは優雅だが、やることはひどく野蛮だな。」


蝶々は冷静に鉄扇を構え、その鋭い刃の攻撃を巧みにかわしていく。


時に受け流し、時に回避しながら、一瞬たりとも隙を見せない。だが、振るわれる一撃一撃の重みが手に伝わるたび、表情には緊張感が浮かんでいた。


「っ…(この鎌の威力、まともに受けたら命はないな)」


ラルデュナは宙を軽やかに跳び回り、壁を蹴って加速をつけながら次々と攻撃を仕掛けてくる。


その立体的な動きは予測が難しく、蝶々の動きを追い詰めていった。


「我ハ問ウ。ソノ程度ノ腕前デ、我ノ鎌ニ抗ウツモリカ?」


大鎌の刃が鋭く振るわれるたび、銅像は切断され、コンクリートの壁が容易く裂け、瓦礫が飛び散る。その破壊力には並々ならぬものがあった。


「…お前のように喋りすぎる敵は珍しくない。ほとんどが痛い目を見て終わるものだ。」


蝶々は冷静さを崩さぬよう言い返したものの、敵の異常な戦闘力を内心では警戒していた。


「ハッハッハ!喜ベ蝶々。久方ブリ二我ガ首刈リノ相手二相応シイ。」


「…嬉しくないな…」


ラルデュナの甲高い笑い声が夜の闇を引き裂く。


足元に瓦礫が広がる中、彼女は楽しげに大鎌を振るう。その一撃が壁を砕き、無数の破片を飛ばすたび、蝶々は機敏にその隙間を縫って回避する。


「それが、お前の全力か…?そんな攻撃では私の首を取ることなどできないぞっ!」


蝶々は鋭い目つきで敵を見据え、鉄扇を一閃。その鋭い攻撃はラルデュナの胸元をわずかにかすめたが、彼女はすかさず鎌の柄を盾のように使い、その一撃を受け止めた。


「オ前ハ実二愉快ダナ…蝶々。」


弾かれた鉄扇が甲高い音を立てる一方、蝶々は再び態勢を立て直し、間髪を入れずに風と氷を伴う一撃を放った。


瞬間、激しい風圧と冷気がラルデュナを襲い、その衝撃で彼の身体が宙を舞う。しかし、宙返りしながら壁を蹴って衝撃を吸収し、再び笑みを浮かべて蝶々に言葉を投げた。


「良イ、非常ニ良イ。首刈リノ儀式ニ相応シイッ!」


蝶々は軽やかに動きながら攻撃の隙を探していた。


足場を利用しつつ、相手との距離感を巧みに保つ。


その瞬間、ラルデュナが再び不気味な声で挑発を始めた。


「貴様ノ首、我ノ刃デ奪ッテヤル!我ガ収集物ノ中デモ群ヲ抜ク逸品二ナルデアロウ!」


その声には冷酷さと自信が満ち溢れていた。まるでこの戦いそのものを楽しんでいるような口ぶりだったが、蝶々の表情は一切揺るがなかった。


「お前のような上級怪人がこの国にいるとはな…だが、こちらもこんな場所で倒れるわけにはいかない!」


鋭い視線を向ける蝶々。鉄扇を力強く振ると、刃先が周囲の空気を切り裂き、冷ややかな風を巻き起こす。しかし、ラルデュナの鎌はその動きを正確に読み取り、難なく相殺してきた。


「ッ…見事ナ技ダガ、我ニハ届カヌ!」


二人の攻防は一進一退のまま、周囲を荒らしながら続いていく。蝶々は呼吸を整えつつ、戦況を冷静に見極めていた。


「力比べで挑んでも、この怪人相手では勝算が薄い…。やり方を変えなければ。」


戦闘の隙間で意識が少し部屋の様子に戻ると、未だにベッドでぐっすり眠っているエルの姿が目に入った。


「くぅ…くぅ♪ちょうちょう。あれ食べたいぃ…むにゃむにゃ…くぅ…」


蝶々は内心苦笑した。


「この緊迫感の中でよく寝られるものだな…。」


そんな余裕を見せた一瞬すら許さぬかのように、ラルデュナが宙を舞う。そして、勢いを増して放たれる鎌の一撃が、またも壁や天井を容赦なく裂いていく。


「ハッハッハ!貴様ノ血ヲ撒キ散ラス刻ヲ心待チ二シテイル!」


蝶々は飛び交う瓦礫の中を潜り抜け、敵の攻撃パターンを注意深く観察していた。彼女の動きが予測可能になるたび、自信を取り戻していく。


鋭い目つきで相手の軌道を読み取った瞬間、蝶々は気配を殺し、一気に懐へ踏み込んだ。


「お前の趣味に付き合っている暇はない。勝負を急がせてもらう!」


蝶々は鉄扇を高く掲げた刹那、風を切る勢いでラルデュナの胸元を狙った。しかし――。


「ソレガ貴様ノ敗因ダ!」


ラルデュナは間合いの隙を突き、巨大な鎌を横へ振るう。その一撃は正確無比で、蝶々の鉄扇はわずかに軌道を外され、空を切った。


「くっ!」


ラルデュナの顔に浮かぶのは、勝利を確信した不敵な笑み。間髪を入れず、さらなる追撃を仕掛けてくる。圧倒的な攻撃力を誇る大鎌の猛攻が、月光の下で苛烈な連撃を放ち続けるのだった。


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