第四十八作戦:蝶々、海外でリフレッシュ!?
「バニラこそ至高!なぜわからないっ!」
「黙れ、異端者!チョコこそ王道だ、それがなぜわからない!」
バニラ派とチョコ派が激しい論争を繰り広げる街角。
その一方で、「アンチヒーロー派」の暴徒化した市民たちはさらに状況を悪化させていた。
彼らは目についた看板や窓ガラスを破壊し、街を無秩序に荒らし始めている。
「マスク・ド・ドラゴンは悪だぁっ!」
「ひぃっ!?や、やめてくださいぃっ!」
洗脳された市民による暴走が止まらず、警察も出動したものの、市民同士の争いに巻き込まれて身動きが取れない。
混乱は収拾がつかず、街全体がパニックに陥っていた。
混乱の中心に立たされているのは、正義のヒーロー・マスク・ド・ドラゴンだった。
変身後のたつみは、目の前で暴れる市民たちを見つめながら唇をかむ。
「……くっ、どうすれば……」
彼女の眼前ではアンチヒーロー派の市民たちが暴力的に衝突している。
だが、彼らはあくまで一般人。彼女の力で強引に制圧すれば、それこそヒーローが悪に堕ちるという最悪の展開を招く。
「皆さん、落ち着いて!落ち着いて下さいっ!」
たつみは力強い声で叫ぶ。
「暴力では何も解決しません!言葉で話し合いましょう!」
だが、その必死の訴えにもかかわらず、市民たちは一向に耳を貸そうとしない。それぞれが興奮状態のまま、争いをさらに激化させていく。
「…どうして私の話を聞いてくれないの……?」
たつみは周囲の騒乱を眺めながら心の中でつぶやいた。ヒーローとして街を守りたいという願いとは裏腹に、力の行使をためらうことで混乱を止められない自分に焦りと苛立ちを覚える。
周囲の市民が叫び、乱闘し、非難し合う中、たつみの心に重たいプレッシャーがのしかかっていた――。
ヒーローの信念を貫きながら、彼女はどうにかこの状況を乗り越えなければならないのだ。
―――
不死鳥の羽のアジト。広いモニタールームでは、蝶々が街中の様子をじっと見つめていた。
モニターに映し出されたのは、暴徒化したアンチヒーロー派の市民たちと、それに対抗する人々、さらにはバニラ派とチョコ派による壮絶なお菓子論争――混乱の極みだった。
「……ふむ、十分に混乱しているな。これ以上、私たちが何かするまでもないかもしれない……」
モニター越しの混沌を見て、蝶々は短く呟いた。
口調こそ冷静だが、その顔には疲れの色が滲んでいる。
ふっと肩の力を抜き、彼女は背もたれに身を預けると、長いため息をついて目頭を押さえた。
「はぁ……せっかくだ。いっそ長期休暇でも取るか……海外旅行がいいな……」
その一言に、幹部たちは一斉に振り返った。蝶々が休暇を提案したと知り、部屋の空気が一変する。
「ちょー様が行くなら、ピエラちゃんも行きたいのだ!海外の食べ物たっくさん食べるのだ!」
ピエラが飛び上がりながら声を上げると、エルもすぐさま乗っかった。
「海外か~!美味しいものいっぱい食べられるじゃん! アタシもついてくわっ!ってか連れて行きなさいっ!」
アンカーは腕を組み、にやりと冷笑を浮かべる。
「外国人シバくなんて、ええトレーニングになるかもしれへんな~。うちも行くわ!」
最後に、パンドラがいつも通りの堂々とした態度で宣言した。
「もちろん、わたくしも同行いたしますわ!蝶々様との新婚旅行がようやく実現するのですもの!」
蝶々は呆れたように額に手を当てた。
「……ただの長期休暇だ……」
そんな幹部たちのやりとりを見ていたアールは、小さく手を挙げて控えめに言った。
「ボ、ボクはアジトを見張っておきます……引きこもり最高です……」
蝶々は静かにため息をつくと、アールを見やりながら首を振る。
「アールが残ったとしても、何かあった時のために複数人は残るべきだ……1人だけなら、旅行に連れて行ってやる……。誰が行くか話し合って決めろ……」
「ええーっ!」と、幹部たちの不満が一斉に噴き出したが、蝶々は椅子を回転させて議論の場から背を向けた。
幹部たちはそれぞれ視線を交わしながら、話し合いを始める気配を見せる。しかし――話し合いにまとまりが生まれるわけもなく、騒ぎは次第にヒートアップしていった。
果たして、蝶々の休暇に同行する権利を勝ち取るのは誰なのか――彼らの戦いが始まったのだった。
不死鳥の羽の幹部会議室に熱気が充満していた。蝶々の休暇に同行できるのはただ一人。この重大な権利を巡り、幹部たちの話し合いは平行線をたどっていた。
「ピエラちゃんが行くのだっ!」
「アタシが行くのっ!」
「バカ言うな、うちが行く言うてんるんや!」
「ここは参謀たる、わたくしに譲るべきですわっ!」
「…早く終わらないかな…」
押し問答が続く中、アジトの主である蝶々は額に手を当てて椅子に座っていた。面倒なやりとりにため息をつき、ついには苛立ちを隠さず言い放つ。
「……まだか。いつまで話し合っている……」
その様子を見たアールがそっと進言した。
「ボ、ボス…も、もう、じゃんけんで決めるとか…どうですか…?」
蝶々はしばし黙考し、静かにうなずいた。
「……そうだな。それが早いだろう。全員、じゃんけんで決めろ」
幹部たちが視線を交わし、ぎくりと肩をすくめる。アンカーが念押しした。
「ほんまに誰が勝っても恨みっこなしやで……?」
ピエラは拳を振り上げて叫ぶ。
「ピエラちゃん、勝つ気しかしないのだっ!」
エルは腕を組み、挑発的な笑みを浮かべた。
「上等よ、アタシが勝つけどね!」
「ふふっ、蝶々様との新婚旅行のため……手加減いたしませんわ!」とパンドラは小指を立てながら微笑むが、目は燃えるような闘志に満ちている。
「いくで~! じゃ~ん、け~ん、ぽん!」
全員の拳が一斉に放たれる――結果はエルの勝利だった。
ピエラはその場で地団駄を踏む。
「ピエラちゃん、負けたのだっ!」
アンカーは舌打ちしながら悔しそうに呟く。
「ちっ…しゃーないな、しゃあないけど……悔しいわ!」
パンドラは深いため息をつきながら微笑みを取り繕うものの、その目は悔しさに燃えている。
「ぐうぅぅっ……エル…ちょ、蝶々様を頼みますわ……! わたくしも行きたかったですのにっ!」
エルは勝ち誇ったように両手を腰に当て、にんまりと笑う。
「ひっひ♪ 美味しいものいっぱい食べてくるからさ~」
蝶々は勝者となったエルをちらりと見て、低い声で釘を刺した。
「エル……あまりハメは外しすぎるな……?」
「わかってるって~! ねっ? しっかり食べることも抜かりない!」
蝶々は重々しくため息をつき、視線を残された幹部たちに向ける。
「お前たち……いいか? 私が留守にしている間、しっかりアジトを守れ……万が一の事態があれば、その責任はお前たちにある……」
その言葉に残る幹部たちは一斉にうなずいた。
こうして蝶々とエルの「休暇計画」は幕を開けた。
エルは上機嫌に、蝶々は半ば不安を抱えたまま、旅立っていく。そして――
「よぉっしゃああ! ……んで、このアジト、どう守るんや?」
「ピエラちゃんがリーダーするのだ!」
「うちがまとめた方が早いわ!」
「そこはわたくしがリーダーとしてまとめるべきですわっ!」
「…ボス…早く戻って来て下さい…」
アジトに残った幹部たちは、新たな頭痛の種を抱え込みながら、何とか次の混乱に備えていくのだった。




