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第四十三作戦:昆虫怪人タッグの脅威

町に不気味な雰囲気が漂い始めたのは、ほんの数日前のことだった。


夜が更けると、人々の間で奇妙な噂がささやかれ始めた。


「耳元で、誰かが話してる気がする…でも、誰もいないんだ。」


「私も聞いたわ。はっきりとは聞こえなかったけど、何か不気味な囁き声がずっと離れなかった。」


静かな町を騒然とさせるその現象は、徐々に広がり、誰もがその正体に怯え始めていた。


囁き声に悩まされる者が急増する一方で、その噂の中心には、ある名が浮かび上がっていた。


――「バグズ」。


奇怪な現象を引き起こすとされる新たな怪人の名だ。その正体も目的も不明。ただ、囁き声に怯え、恐れた住民たちの間で語られる姿はますます異様なものとなっていった。


バグズの影に覆われる町。人々はいつ訪れるかわからない災厄を恐れながら、静かにその夜を迎えた。



―――



蝶々は一連の噂をいち早く察知し、緊急会議を招集していた。会議室には幹部たちが集まり、彼女の言葉に耳を傾ける。


「バグズ――最近、噂される怪人だ。」


蝶々が静かに口を開く。


幹部たちの視線が集中する中、パンドラが手元の資料を眺めながら問いかけた。


「噂には聞いておりますけれど…いったいどんな怪人なのでしょうか?」


「バグという名前から察するに、虫型の可能性が高いだろうな。」


その言葉にエルが渋い顔をする。


「うぇ…虫?アタシ、虫はちょっと…無理なんだけど。」


「ピエラちゃん的には、虫は良い子なのだ!」ピエラが嬉々として発言する。


アンカーが肩をすくめて言った。


「そらピエラの虫は、動かんかったらただの綺麗な玉やけどなぁ。」


幹部たちの軽口が飛び交う中、蝶々の目が鋭く光る。


「どんな怪人だろうと、我々の計画を邪魔するようなら、排除する。それだけの話だ」


ピシッと締まった蝶々の言葉に、場が再び引き締まる。


「バグズの影響が最初に報告されたのは、満田市の郊外だ。そこを拠点に何らかの活動をしている可能性が高い。」


蝶々の指示を受け、幹部たちは調査のため満田市へ向かう準備を整え始めた。不気味な囁きの正体を突き止めるために、そして新たな敵に立ち向かうために。



―――




昼下がりの平穏を引き裂くように、満田市の街中に巨大な怪人が現れた。


「おいこらァ!人間ども、道を開けなァ!」


江戸っ子口調の怒声とともに姿を現したのは、カブトムシ型の怪人『武人兜』だ。


屈強な山のような体格、頭に生えた大きな角がひとたび振り回されると、車は宙を舞い、街灯が無惨に折れる。


その隣には、洗練された雰囲気を纏うクワガタ型の怪人『シザーエンペラー』が立っていた。


鋭利な挟みを鈍く光らせながら冷静な視線を放つ彼は、相棒の荒々しさに軽く嘆息する。


「おやおや、実に粗野だな、武人兜。僕たちの目的はスマートに果たすべきだと言ったはずだよ…?」


「てやんでェ!まどろっこしいのは俺の性に合わねぇんだよ、シザー!」


荒々しい武人兜と冷静沈着なシザーエンペラー。この異質な二人の怪人は、無慈悲に市民たちを蹂躙し始めた。


武人兜が角を振り回せば、逃げ惑う市民が宙に投げ出され、壁に叩きつけられて絶命する。シザーエンペラーが悠然と歩を進めながら挟みを振るうと、その鋭利さに耐えきれず市民の体が一刀両断され、無惨な結末を迎える。


「きゃああああああ!」


悲鳴が満田市の空気を支配した。命を惜しみ逃げ惑う市民たちは、この二体の前に手も足も出なかった。怪人たちの圧倒的な力は平穏な日常を無慈悲に飲み込み、その場を地獄絵図へと変えていったのだった。


「そこまでよっ!」


轟く声と共に現れたのは、マスク・ド・ドラゴン。たつみが颯爽と敵の前に立ちはだかった。


「おっと…来やがったか。こいつが噂のマスク・ド・ドラゴンってやつか?」


不敵な笑みを浮かべた武人兜がたつみに目を向ける。その巨体から漂う圧倒的な存在感に、周囲の空気が凍りつくようだった。


「あなたたち…不死鳥の羽の怪人ね!」


たつみはお馴染みの決めポーズを取り、鋭い目つきで二人を睨みつける。しかし、目の前の怪人たちはこれまで戦ってきた相手とは明らかに一線を画していた。両者の放つ圧迫感は、ただ立っているだけで尋常ではない威圧感を周囲に撒き散らしている。


「あぁ…?不死鳥の羽…何だ、それ…?」


武人兜が眉をひそめ、不満げに声を上げる。その様子を横目で見たシザーエンペラーが、冷静に口を開いた。


「不死鳥の羽…古くから活動している悪の組織だよ。僕らほどの者が知らないとは言わせないが…」


「てめぇ、俺はそんなん聞いたことねぇぞ!」


不満げに吠える武人兜だが、シザーエンペラーは少し肩をすくめた。


「ふぅ…残念ながら、僕たちその『不死鳥の羽』とやらには無関係だ。」


たつみは二人のやり取りを聞いて眉をひそめた。予想外の返答に動揺したわけではない。ただ、この二人の佇まいが、それだけで手強いことを物語っていた。


「何とも独特な衣装だな。…だが、君の動きは一見の価値がありそうだ。」


鋭い挟みを微かに鳴らしながら、シザーエンペラーがたつみをじっと観察する。


「さて、君がこの状況をどう打開するか。ぜひ見せてもらいたいものだ。」


「……」


たつみは腰を落として構えを取り、冷たい視線を向けた。


対峙する三人の間に張り詰めた空気が漂い始める。戦いの火蓋が切られる瞬間は、すでに目の前に迫っていた。


たつみの目の前で戦闘の火花が散った。


「行くぜえ!」


武人兜が怒声と共にその巨体を大きく振りかぶり、鋭い角を振り回す。


彼の動きには迷いがなく、一撃で地面を砕き、大地を振動させるほどの破壊力があった。


「はっ…!」


たつみはその凄まじい攻撃を紙一重でかわしながら、間髪入れずに飛び退く。しかし、わずかな隙を狙っていたシザーエンペラーが鋭利な挟みを光らせ、疾風のように反撃に転じた。


「っ…危ない!」


たつみはその攻撃を間一髪で防御したものの、衝撃の余波に押されて後方に吹き飛ばされた。重い一撃がマスク越しにまで伝わり、彼女は地面に転がるように着地する。


「くっ、なんて連携…想像以上に厄介だわ…!」


息を整える間もなく、たつみは膝をついて立ち上がった。しかし、彼女を狙って再び巨大な影が迫ってくる。


「てめえの根性、見せてみやがれ!」


怒声とともに振り下ろされる武人兜の拳。それはあまりにも巨大で、地面を抉る音とともにたつみの足元で衝撃波を引き起こした。


「…っ!」


間一髪でその一撃をかわすたつみ。彼女の顔に緊張の色が浮かぶ。


「(この攻撃…直撃すれば危ない…っ!)」


たつみの額にじんわりと汗が滲む。武人兜とシザーエンペラー、圧倒的な体格と精密な動き。二人の異形の怪人の前に、たつみは確かな手応えを見いだせずにいた。


戦場の中、一瞬の隙をついてたつみが問いかけた。


「あなたたちは、いったい何が目的なの?」


武人兜の攻撃を避け、距離を取ったたつみの目は鋭く光る。その言葉に、シザーエンペラーが冷ややかな微笑を浮かべながら応じた。


「目的、だって?フフ…君に理解できるとは思わないね。僕たちがここで暴れている理由など、ただ力が試される舞台を欲しただけのことさ。」


その言葉に、たつみの眉が険しく寄る。市街地での破壊行為がただの力試しだというのか――。


「てめえ、余計なこと言いやがって!」


武人兜が苛立ちを隠さずシザーエンペラーを睨みつけた。


「すべて計算の上だよ、武人兜。」


シザーエンペラーは相変わらず余裕たっぷりの態度で返す。その涼しい顔の下にどこか揺るぎない確信を漂わせながら。だが、シザーエンペラーが武人兜に視線を移した瞬間――


「よそ見するヒマなんて…ないっ!」


たつみが隙を見逃すはずがなかった。相手の注意が逸れた刹那、彼女は俊敏な動きで一気に間合いを詰めると、全力の一撃をシザーエンペラーに叩き込んだ。


「ぐっ…!」


シザーエンペラーの体が後方へ吹き飛ぶ。たつみはそのまま次の一手に移るべく目を光らせた。彼女の攻勢が始まる。


―――



戦場に視線を据える蝶々と幹部たち。不死鳥の羽の面々は遠くから、マスク・ド・ドラゴンと武人兜、シザーエンペラーの激闘を静かに見守っていた。


「あれが噂の『バグズ』というやつでしょうか…?」


パンドラが身を乗り出し、慎重に尋ねる。


「そうちゃうか?どう見ても虫型のやつらやん。」


アンカーが軽く腕を組んで応じる。


「うーん…あの角、チョコみたいで美味しそうなのだっ!」


無邪気に目を輝かせるピエラに、一同の肩が思わず落ちる。


「ほんっと…ピエラって食べ物のことしか頭にないわよね…」


エルがため息混じりに吐き捨てる。


「でも…カブトとクワガタって、えへ…かっこいいよね。」


アールは嬉しそうに呟くが、その一方で全員の中で最も口数が少ない蝶々は、眉をひそめ、目を細めてじっと戦況を見つめていた。


その表情を捉えたパンドラが心配そうに尋ねる。


「蝶々様…どうかなさいましたか…?」


蝶々は答えず、じっと考え込む。そして低く呟いた。


「バグズが夜に現れるというのが噂だった。それなのに…」


「そりゃあ、夜だけじゃなくて朝も昼も活動するんじゃないの?」


エルが大げさに肩をすくめる。


「虫は確かに夜行性いうけど…それでええやないか?蝶々はん、考えすぎとちゃう?」


アンカーが軽い調子で相槌を打つ。


だが蝶々はどこか納得できない様子で、小さく首を振る。


「…本当に…そうなのか…?」


彼女の目はなおも鋭く、戦場で火花を散らす三者を見つめていた。その視線には、一抹の疑念と危機感が入り混じっている。


「なかなかやるじゃねえか!だが、俺たちに勝てると思ってんのかぁっ!」


武人兜の叫び声が戦場に響き渡り、その迫力に周囲の瓦礫が震えた。


たつみは鋭い息を吐き、敵を睨みつける。


「はぁっ!」


「ふむ、君の動き、見事なものだ。僕たち二人を相手にして、ここまで立ち回れるとは感心するよ。しかし、それでも勝てるわけがない。」


シザーエンペラーが冷ややかな笑みを浮かべる。


戦況が悪化しつつある中、たつみは拳を握りしめ、深呼吸をした。そして心の中で決意を固めた瞬間、身体に熱が走る。燃えるようなオーラが彼女の全身を包み込む。


「ここで決める…!『ブレイジング・フォルム』!!」


その言葉と共に、角と尻尾が生えたたつみの速度と力が大幅に向上する。


光の残像を伴う動きで、武人兜とシザーエンペラーの猛攻を紙一重でかわしながら、反撃を繰り出した。


「喰らいなさいっ!『ドラゴンキックゥゥっ!』」


たつみの強烈な蹴りがシザーエンペラーを襲う。


「こりゃ…やべぇっ!シザーっ、俺の後ろに回れ!」


武人兜が咄嗟に叫び、シザーエンペラーが素早く背後に移動する。


「はぁぁっ!」


渾身の一撃が武人兜の巨体を直撃した。しかし、彼の重厚な装甲は致命傷を防ぎ、体にひびが入った程度で持ちこたえる。


「ぐおおぉぉっ!」


武人兜が後退しながら呻き声をあげる。その体勢を見て、たつみは奥歯をかみしめた。


「…普通の怪人なら、即死だったはずなのに…」


息を整えながら、武人兜は不敵な笑みを浮かべた。


「はぁ…はぁ…やるじゃねえか!けどな、俺たちはまだ終わっちゃいねえ!」


すると、シザーエンペラーが静かに前に出た。


「おっと…武人兜、残念だがタイムアップだ。撤退しよう。」


「なにっ!?もうかよ!まだまだ暴れたりねえんだけどな!」


武人兜は不満げに叫ぶが、シザーエンペラーの冷静な目線に観念したように肩をすくめる。


「ちっ…命令だもんな。仕方ねえ…」


たつみは二人の会話の詳細は聞き取れなかったものの、二人の動きが変わったことに気づく。


「っ!逃げるのっ!?待ちなさい!」


たつみは追撃しようと足を動かしかけたが、瓦礫の間で震える市民たちが目に入る。


「ここで下手に動けば、市民を巻き込むことになる…」


武人兜とシザーエンペラーはたつみの迷いを見逃さず、一瞬の隙を突いてその場を後にした。遠ざかる二人の背中を見つめながら、たつみは悔しげに拳を握りしめた。


「まだ…終わりじゃないわ。」


崩れ落ちた瓦礫の隙間から、一人一人を救い出しながら、たつみは心の中で次なる戦いを誓うのだった。


「(…あの怪人たち…何かひっかるなぁ…)」


戦いの後、街は再び平和を取り戻したが、たつみの中には新たな疑問が残った。二人の怪人の行動には「何か理由がある」と直感で感じていたからだ。




―――




アジトに戻った幹部たちは、マスク・ド・ドラゴンと怪人たちの激闘を振り返りながら、それぞれの感想を口にしていた。


「今回の戦い、結果としてはマスク・ド・ドラゴンに軍配が上がったようですわね。」


パンドラが落ち着いた口調で言うと、エルが口元を歪めて笑い出す。


「でも、倒せなかったじゃん!ざっこ♪マスク・ド・ドラゴンざっこっ♪」


「…エル、があのキックを受けてたら、か、確実に死んでるよ…」


アールが不安げな声で返すと、エルは一瞬動きを止め、言い返そうとするも何も言えなかった。


「うちやって、あのキックをまともに喰らったら五体満足で済む気せえへんわ…。あの蹴り耐えれるのは蝶々はんか、パンドラくらいなもんやろ。」


アンカーが苦笑いを浮かべながらつぶやく。


「ピエラちゃんはキックは食べたくないのだっ♪手羽先が食べたいのだっ♪」


ピエラが無邪気に笑うと、幹部たちは一斉に溜め息をついた。


その一方で、蝶々は彼らの会話を横耳で聞きながら、自身の考えに没頭していた。


「(あの虫型の怪人たち…。戦いの最後での様子が引っかかるな…。彼ら、単独で動いているようには見えなかった。誰かの指示を受けていたのか?)」


蝶々の冷静な目は遠くを見据えていた。彼女の胸には、得体の知れない違和感がかすかな疼きとともに刻まれていた。それは、単なる勘ではなく、これまでの数多くの戦いをくぐり抜けてきた者だけが持つ鋭い直感だった。


彼女は再び、幹部たちに話を向けることなく黙ったまま、ただ静かに思考を巡らせていた。

「(やはり、奴らの背後には何かが潜んでいる…。)」



―――



夜の帳が街を覆い尽くす頃、誰も寄りつかない廃墟に二つの影が現れた。武人兜とシザーエンペラーだ。


廃れた建物の中は静寂に包まれていたが、二人が奥へと足を進めるたびに、小さな「カサ…」という音が耳を突き始める。その音は、やがて「ガサガサ…」という不快なざわめきに変わり、周囲の闇が彼らを飲み込むように迫る。


やがて二人は広い空間にたどり着いた。月明かりが廃墟の瓦礫を照らし出し、地面を埋め尽くす黒い塊を浮かび上がらせる。それらはすべて生きたゴキブリだった。何千、何万匹ともつかないゴキブリたちが地を這い、壁を這い、そしてその中心には一人の異形の姿が立っていた。


その男は、中指にゴキブリを指輪のようにまとい、人間の形をした虫とでも言うべき外見を持つ。長い触覚が揺れ動き、怪しく赤い光を宿した目で二人を見据えていた。


「おぅっ!来たぜぇ。ボスゥ!」


武人兜が気安い口調で呼びかける。


「待っていましたよ、二人とも。」


静かながら低く響く声が廃墟に満ちた。

触覚をゆっくり動かしながら、ゴキブリ型怪人『クロガネ』が一歩前に出る。その周囲では、まるで主の感情に呼応するようにゴキブリたちが音を立てて蠢いていた。


「それで…?奴らも来ていたのかい?」


シザーエンペラーの問にクロガネは目を赤く輝かせ口を開いた。


「えぇ。不死鳥の羽の幹部たちも、こちらを伺っている様子でした。そして…すべては計画通りに進んでいますよ…」


クロガネが口角をゆっくりと引き上げる。


「おいおい、やるんだな?」


武人兜が期待に胸を膨らませたような口調で尋ねる。


「もちろんです」


クロガネは拳を前に突き出しギュッと握りしめる。


月明かりの下、その黒い体がいっそう妖しく輝く。


「明日の深夜、我々『バグズ』が世界にその名を轟かせる。これより世界征服を開始する!」


クロガネが高らかに声を上げると、ゴキブリたちは一層激しくうごめき始めた。それはまるで、彼ら自身も征服の狼煙を上げているかのようだった。


一方で、不気味な雰囲気に満ちた廃墟とは対照的に、街はまだ何も知らずに静かな眠りについていた。だが、この一夜の静寂も明日の大波乱の幕開けに過ぎなかった――。




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