第四作戦:双子?それとも一人?単眼怪人スイッチチェンジ
「エル&アール・スイッチチェンジ、単眼怪人……か」
アンカーとサンダーを組織に戻し
蝶々は名簿を読みながら、次のターゲットがどんな奴かを想像していた。
「白い肌と褐色肌の双子か」
「蝶々様、少し違います。
あの二人は不思議な存在なのです。
外見は双子のようですが、実は同一個体で……性格は……」
パンドラがいつものように説明するが、蝶々は手をひらりと振って話を遮った。
「詳しいことはいい。どうせ変な奴なんだろ
会えば分かる…」
セクハラさえなければ、有能な参謀のパンドラに頭をかかえながら
指定された場所に到着する。
そこは町の図書館だった。蝶々は眉をひそめる。
「今度は図書館か……
悪の幹部って、もうちょっと怪しいところにいるもんだろ」
「エルはともかくアールは本を読むのが好きと記憶しております」
「そうか…って。だから尻を触るなっ」
「あぶしっ♥…ありがとうございますわぁっ♥」
さりげなく、パンドラの触手が蝶々の尻を撫でまわすが
すぐさま蝶々の回し蹴りがさく裂する。
パンドラの頭は吹き飛びつつも感謝の言葉を述べ数秒後には
頭が再生する。
いつもの光景だ。
蝶々たちの騒ぎが耳に入ったのか、静寂を破る声が響いた。
「ちょっと!図書館では静かにしなさいよ!」
蝶々の目の前には、ピンク髪に白い肌にをした単眼の怪人――エルが立っていた。
「ほんっと男子ってうるさくって嫌ね…暇つぶしの読書に
勤しんでたのにっ」
「……誰が男子だ。どうみても女だろう…」
そうだよなと視線をパンドラに送るといつも肯定するパンドラは
申し訳なさそうに視線を逸らす。
「え?女……うっそだぁ…だってあんた、男みたいじゃん!
てか、ここに何しに来たのよ?騒ぎたいだけなら追い出すわよっ!」
「……私は不死鳥の羽の新しい首領。蝶々だ。
エル。お前組織に連れ戻すために来た。大人しくついてこい」
「い・や…!アタシ、感じるわ。あんた人間の血入ってんでしょ。
そんなのに従いわけないでしょっ!消えなさいっ」
後ろから小さな声が聞こえてきた。
「……エル、早く謝らないと……こ 殺されちゃうよ…」
そこに現れたのは、エルと同じ髪色の単眼。
肌は褐色肌で気弱そうな怪人――アールだった。
エルとは対照的におどおどとした態度だが、その目の奥に怪しい光が宿っている。
蝶々を値踏みしているかのようだ。
ようやく2人揃って話せるタイミングで視界の端から大声が響く。
それは司書のようで、怒り心頭のようでエルを見つめていた。
「ちょっと、またあなたなの!
騒いだら追い出すって言ったわよね!何度も何度も
注意したのに分からないのっ?」
「っ!そ それはこいつが来たから」
言い訳は聞かないと言った感じの司書によって蝶々たちは
追い出されてしまった。
「ちょっと!あんたの性で追い出されちゃったじゃないっ!
どうするのよっ!責任とんなさいよ!」
「だから…組織に戻れと言ってるだろう?」
「だから嫌って言ってるでしょっ」
面倒だなぁとつぶやくと蝶々は懐から練りからしを手に乗せ
からしをエルの顔に塗りたくる。
大きな目を持つエルには効果が絶大で苦痛の声をあげる。
「…最初からこうすればよかったな」
「蝶々様鬼畜…でも、そんな所も素敵ですわ♥」
「ぎゃぁぁっ。目がぁっ目がぁっ⁉
目が焼けるっ。痛いいたいぃぃっ!」
「あわわ…エ エル…」
転げまわるエルをアールはおどおどと見つめているが
心なしか喜んでいるように思える。
「ぅぅぅっ…アールっ。あんた…あの男女やっちゃいなさいっ
アタシたちスイッチチェンジの力を見せつけなさいっ」
「ボスっ。ボクは組織に戻ろうと思いますっ」
「よし」
アールにもからしを塗ろうとするより早く降伏したため
蝶々はからしを仕舞い手をふき取る。
「お、おいアール!何言っての!アタシたちは一心同体なんだから
助けなさいよ!」
「…そうだけど……ボク、エルがいなくても生きていけるから……」
エルが焦って説得を試みる中、蝶々は興味深そうに二人を見比べていた。
見た目は似ているようで性格は真逆な2人がどのような対応をとるか。
「それで…?アールは組織に戻る」
「は はいぃ。アール・スイッチチェンジ。新しいボスのために
粉骨砕身で働きますっ」
「エルはどうする?」
「いや…いやぁっ戻らないもんっ。
アタシは…」
「そうか。お代わりか…」
エルの対応を察してかすでにからしを手にのせエルの顔に再度
塗りたくる。
「また…目っ…目をぉっ…あぁぁぁっ⁉」
一方でアールは、エルが倒れる様子を見て小声で「ざまぁ……」と呟く。
その呟きは誰の耳にも入らない。
結局、エルは蝶々の圧倒的な力に屈し、
泣く泣く組織へ戻ることになった。
「うぅ…覚えてなさい蝶々!絶対後悔させてやるんだから」
とエルが捨て台詞を吐けば、
アールが「エルは学習しないんだから…」と呆れているようだ。
蝶々は首を振りつつも、少しだけ微笑んだ。
「これで幹部は全員揃ったか。
さて、次は本格的な世界征服計画だな」
だが、そんな蝶々の背後では、再び騒ぎが始まろうとしていた。