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第三十一作戦:ヒーローとファンクラブと正義の試練

「うっ…な、何でこんなことに……!」


たつみ――いや、マスク・ド・ドラゴンは今、闘いの渦中にあった。


「うひゅぉぉっ!生のマスク・ド・ドラゴンっ!」


「うひっ…壮観ですなぁ…」


ただし、その戦場には不協和音が響いていた。それもそのはず、周囲に集まっているのは手にスマホを持ち、彼女の写真を撮りまくる大勢のファンたちだった。


ことの発端は、ヴァリアントサーカスの一部の団員たちが「マスク・ド・ドラゴンはカッコいい!」と盛り上がり、勢いのまま「非公式ファンクラブ」を結成したことだ。


もちろん蝶々もその動きを把握していたが、なかなか面白い見世物だと黙認している。


結果、「正義のドラゴンを応援しよう!」という名目の元、大規模な応援団が誕生した。


「ねぇっ…すごい恰好っ!」


「えぇ?何々?ここ…コミックマーケットだっけ?」


「これ、どこの巨大イベントよ……っ」


たつみはすっかり観客に囲まれ、応援フラッグを振る声援とカメラのフラッシュを浴びながらため息をついていた。


「くっく♪中々、面白い光景やなぁ…♪爆乳ドラゴン言うたか…?」


そんな中、目の前に立ちふさがったのが不死鳥の羽の幹部・アンカーだった。どこからともなく現れた彼女は、ニヤニヤ笑うと言い放つ。



「確かに爆乳だ」


ファンたちは沸き立ち、カメラのシャッター音が響くが

たつみは、拳を前に突き出す。


「…ま、また胸を…だ、黙りなさい!正義の名のもとに、私はあなたを倒す!」


「うち、アンタみたいなヒーロー嫌いやわ…乳、乳うるさいちゅうねん…

うちだってなぁ…乳のデカなら負けてへんでぇっ!」


「たしかに…怪人も大きい…いやいや。ヒーローの方が…デカいっ」


「ちょっ…胸の大きさで争うのやめなさいっ…」


たつみは本気で抗議したが、アンカーはお

構いなし。近くのファンたちを気にする様子もなく攻撃を仕掛けてきた。


「おらおら♪マスク・ド・ドラゴンのファンたち。しっかりアイツを見ぃ…♪

おっぱいドラゴンの胸がぶるんぶるん揺れてるでぇ♪シャッターチャンスや!

動画でもええで…♪」


ワザとファンを煽るアンカーの言葉に反応してファンたちが盛り上がる。


「「うおぉぉっ!!」」


アンカーの武器は長い長い強靭な尻尾。この尻尾が地面をたたくたび、周囲には裂け目が広がり、観客たちは悲鳴を上げながら後退する。


「っ…皆さん危ないので下がってください!」


たつみは観客を庇う形で戦う羽目になる。


観客たちは退くどころか、「かっこいい!」「でけぇ」と声を上げながら写真を撮り続けていた。


「お願いだから…そのスマホ、しまって……いや、せめて撮るの後にして!」


たつみは真剣に叫んだが、彼らの熱量は凄まじかった。


「マスク・ド・ドラゴン!勝って!」


「こっち向いて、ポーズをお願い!」


「写真良いでござあるかっ…?」


「ローアングルの中々の迫力っ!」


「何なの…この地獄……!」


「おらおら♪」


たつみはファンたちを守るため、アンカーの攻撃を全力で防ぎ続ける羽目に。


「なんや、応援されるのがお気に召さんかぁ…?」


アンカーは余裕の表情で攻撃を続けながらも、ちらりと観客を見てにやりと笑った。


「なら、そこにいるファンもろともいてもましたるわぁ!」


「くっ…やめ…なさいっ…きゃっ!?」


アンカーの攻撃をファンのために受け止める。

よって追い詰められるたつみ。


たつみは懸命に応戦するものの、次第に追い詰められていった。


周囲のファンを巻き込まないよう立ち回るという制約が、彼女の行動を大きく制限していたのだ。




―――



その様子を遠くから観察する蝶々とパンドラ。

優位のアンカーを見て満足げに頷いた。


「…ふっ。…随分と追い詰められてるな、マスク・ド・ドラゴン。」


蝶々は余裕たっぷりの声で言った。


「それにしても…」


忌々しと言った顔でマスク・ド・ドラゴンを見つめるパンドラ。


「マスク・ド・ドラゴンにはこんなにファンがついていましたのね……わたくしの方が美しいのに不思議ですわ…」


パンドラが自信満々に語ると、蝶々は無視する形で話を進めた。


「おらおらっ。連続で行くでぇっ」


「!っ…ふっ…はぁっ!……きゃぁぁっ」


観客に向かう尻尾を捌いていくが、顔面に強烈な一撃が入る。


「…マスク・ド・ドラゴンもどうやらここまでのようだな」


「ふふ。障害が1つ排除されますわ♥

あぁ、もうっ…わたくしと蝶々様との愛の障害も排除できれば良いのに♥」


「……」


「ちょうちょうさま♥…んちゅ♥んちゅ♥んちゅ♥」


唇を突き出すパンドラを手で制する蝶々はアンカーとマスク・ド・ドラゴンの

戦いの行方を見守る。




―――




「はぁ…はぁ…くっ」


「くっく♪まだまだ元気やなぁ…うち、めっちゃ興奮してくるわぁ…♪

これで…終いや!」


足で尻尾を弄るアンカーは片目を開くとするどい尻尾の一撃を繰り出す。


「負けるわけには…行かない!?…はぁぁぁっ!」


瞬時に身体を躍動させ、思い切りジャンプすると尻尾攻撃をかわす。

たつみの体が金色に変化していく。


「なん、やとっ!?…ここでパワーアップかいなっ!」


マスク・ド・ドラゴンの第二形態。

頭部に角が生え、尻尾が生える。まさに、ドラゴンと言った風貌『ブレイジング・フォルム』だ。


「喰らいなさい!『ドラゴン・キックうぅぅっ』!!」


「くっ…この威力…あかんっ…ぐあああぁぁっ!」


落下速度で威力を高めた炎の蹴りを繰り出した。アンカーは何とか防ぎきったものの、その反動で戦況は逆転。


「ぐっ…あっかんわ、これ以上戦うのは不利や!…撤退やっ撤退!」


周囲からファンたちの「キャーーーッ!」という歓声が響く中、アンカーは全力で退却していった。


残されたファンとドラゴン

戦いが終わった瞬間、ファンたちは一斉にマスク・ド・ドラゴンに駆け寄った。


「マスク・ド・ドラゴンさん、今日も最高でした!インタビューいいですか!?」


「サイン、今ならもらえますか?」


「胸…揉ませて下さいっ!」


「いやいやいや……!」


たつみは後ずさりしながら大声で叫んだ。


「私は…マスク・ド・ドラゴン。孤高のヒーロー。質問は受け受けません!

皆さん、本当にありがとうございました!」


結局、その場は警察の到着によって逃げきることに成功したたつみ。

疲労困憊のたつみは、変身を解除して静かに溜息をついた。


「これ……どうするの、私……」


蝶々たちは遠くからその様子を見ながら、今回の顛末を密かに観察し、次の動きを考えるのであった。



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