第二十一作戦:悪の組織『不死鳥の羽』 VS マスク・ド・ドラゴン後編
町の大通りがすでに不気味な静寂に包まれていた頃、マスク・ド・ドラゴンは
占拠された水道局へ急いでいた。
水道局が不死鳥の羽に奪われたとの報が入ったとき、
彼女の胸には焦燥が渦巻いていた。
「はぁっ…でも東郷さん。
不死鳥の羽は…はぁ…どうして水道局を狙うんですか?」
通信機に話しかけるマスク・ド・ドラゴン。通話相手は東郷でからのもので、
明らかな焦りが滲んでいた。
『詳しいことは分からない…だが、水源は人の生命線だっ…
何としても取り返さなければっ…頼むぞ…マスク・ド・ドラゴン。
我々ももうすぐ合流できるっ』
「はいっ」
マスク・ド・ドラゴンは拳を強く握りしめた。
悪の組織がどこまで計画を進めているかはまだ不明だが、時間がないことは明白だった。赤と金のアーマーを身を包み、風を切る。
―――
水道局に辿り着いたとき、すでに数十人もの戦闘員が門を固めていた。
中に入るためには正面突破するしかなさそうだった。
「中で幹部たちが待ち構えているんでしょうね…
でも、ここで引き下がるつもりはないわ!」
マスク・ド・ドラゴンは鮮やかなジャンプで突撃する。
戦闘員たちは一瞬たじろいだが、すぐさま態勢を立て直し、押し寄せてきた。
敵の動きは速く、数も多い。
しかし、マスク・ド・ドラゴンの機敏な動きと一撃一撃が戦闘員を圧倒する。
派手な回し蹴りで倒される戦闘員たち。
だが、『イイィッ!』との掛け声で戦闘員は増えていく。
「くっ…数が…多いっ」
早く局内に踏み込みたいマスク・ド・ドラゴン。それを阻む
戦闘員たちに、苛立ちを覚える。
「待たせたなっ。マスク・ド・ドラゴンっ」
「っ!」
マスク・ド・ドラゴンの前に立ちはだかったのは、東郷と相模原、赤根。
そして『怪異』の人たちだった。
「ふぅ…こりゃ…すげぇや…楽しく行こうじゃねぇかっ」
「骨が折れそうっすね…」
「マスク・ド・ドラゴン。ここは、我々に任せて君は
局内へ行ってくれっ」
「は、はいっ」
「全員、全力で前方の敵と戦えっ」
「「「了解っ!!!」
―――
「あらあら…?遅かったじゃない…え~っと…ん…?
おっぱいドラゴンさんだったかしら…?」
美しい声が響き渡る。
その声の主、不死鳥の羽の参謀。
スライム怪人パンドラ・アンバランファス。
スライムの仮面を身につけ、扇情的な衣装に身をまとう。
「っ…わ、私はマスク・ド・ドラゴンだよっ!」
「そこまで怒ることないじゃない♪でも、いい名前だと
思わない?おっぱいドラゴン♪」
「せやなぁ♪その立派な乳揺らして戦うドラゴンのヒーロー…
名前の通りやないか♪」
「ふふ♪牛女って方があってない…?」
「…デカ乳…」
その隣にアンカー、サンダー、エル、アールが立ち
顔を隠すように仮面をつけている。
「また胸の話…不死鳥の羽!…水道局で一体何を企んでいるのっ!」
マスク・ド・ドラゴンが問い詰める。
だがパンドラは動じることなく、冷たく告げた。
「さぁ…?それを考えるのが、あなたの役目じゃなくて…?
フェニックス様が立派に役目を果たしたんですもの…わたくしたちも
それに答えないと、ね?」
「尻尾がなるでぇ♪」
「グルルゥッ!」
「…うっ…怖くなってきたかも…」
「いっつも戦闘の時はだらしないなぁっ!
もっと、小さい胸を張れって!
殺しを楽しもうぜ!」
パンドラ、アンカー、そしてエル&アール――不死鳥の羽の幹部たちが、
狩りの獲物を見据えるように、マスク・ド・ドラゴンを囲んでいく。
「残念だけどここで終わりよマスク・ド・フェニックス」
パンドラは背中の触手2本を軽くひらつかせながら、不敵な笑みを浮かべた。
その横ではアンカーが尻尾に手をかけ、獣の目でじっとマスク・ド・ドラゴンを見据えている。
「4対1。可哀そうなドラゴンやなぁ…♪」
「グルッガオッ!」
「おっと…そうやった。5対1…やな♪
この局面、あんたは、どう突破するんやぁ?」
アンカーの冷たい言葉に、エルが続ける。
「こんなのに、ボクたちが負けるわけないじゃん!なぁ、エル!」
「え…えぇ…そう、よね…」
パンドラたちの声を背に、マスク・ド・ドラゴンは深呼吸を一つ。
だが彼女の目には怯えの色などない。
「…確かに人数はあなたたちの方が有利…でもっ…っ⁉」
彼女の姿勢は崩れず、その目には確固たる決意が宿っている。
マスク・ド・ドラゴンは拳をギュッと握り、幹部たちを見据える。
「それで私が負ける何て保証も…ないっ‼」
「まずはご挨拶や!きばりぃっ!」
最初に仕掛けたのはアンカーだった。長い尻尾を使いマスク・ド・ドラゴンに攻撃を仕掛ける。
「ガオッ!」
それと同時にサンダーも素早いダッシュで間合いを詰める。
「っ!」
マスク・ド・ドラゴンは尻尾の攻撃を避け、次にくる攻撃に備える。
エルとアールも体を密着させ、離れるとワイヤーが2人をつなぐ。
「死ねぇっ!死ねぇっ!」
「ちょっ…ま、待ってよぉ…」
ワイヤーに繋がれたエルとアール。アールの叫びと共に彼女の体を
半分に切断しようと接近する。
「(受けるより、ここは避ける、べきっ)っ…」
マスク・ド・ドラゴンは自身の体を低くし、タイミングでサンダーの爪をかわしつつ
エル&アールのワイヤーも避けていく。
しかし、パンドラが彼女の背後に回り込み、腰から伸びる2本の触手で攻撃する。
「余所見は禁物ですわ、よっ」
素早くパンドラの触手を弾き返そうとするも、反応が一瞬遅れ、軽く体勢を崩される。
「っ!きゃっ⁉」
一瞬の遅れで、アンカーの尻尾が彼女の足を捉える。
引っ張られることで完全に体勢を崩される。
「いてもーたれ!サンダー!」
「グルゥゥッ!!」
「きゃあぁぁっ⁉」
サンダーの強烈なタックルによりマスク・ド・ドラゴンが吹き飛ばされる。
ゴロゴロと転がりながら、体勢を整え起き上がる。
「くっ…っ⁉」
「ふふ。もう終わりかしら?」
攻撃をする余裕がない。
相手の動きを読んで避けるにも限界がある。このままでは押し負けてしまうことを
彼女は理解している。
その時だった。彼女の胸元に隠された紋章が微かに輝き始める。
それは祖父から伝わる竜面寺家の力。
たつみは一度も、解放させたことのない力だ。
「っ…(目覚めの時は今だと言ってるの…?)」
彼女の口元に微かな笑みが浮かぶ。
その輝きは徐々に強まり、マスク・ド・ドラゴンの体全体に金のオーラをまとわせる。
これに気づいたパンドラが瞬時に状況を察し、口を開いた。
「全員。総攻撃よ!変な力に目覚める前に攻め落としなさい!」
だが、もう遅かった。突如、マスク・ド・ドラゴンが大地を揺るがすほどの一歩を
踏み出した。
すさまじい力とともに彼女が黄金に輝き、周囲に凄まじいエネルギーが渦巻く。
「っ…何なのっ…この力っ⁉」
赤と金色のアーマーだったマスク・ド・ドラゴン。
けれど、今のアーマーは金色に輝き、目だけが赤く染まっていた。
「…これがパワーアップした…私っ…
さぁ、反撃開始よっ」
中腰で半身の構えを取り幹部たちを一瞥するマスク・ド・ドラゴン。
「っ…そんなん…ただのハッタリやろうがっ!」
アンカーは鋭い尻尾を敵に放つ。
マスク・ド・ドラゴンは彼女の攻撃を逆手にとり、尻尾を受け止める。
「なっ!?」
「はあぁぁっ!!」
そしてそのまま弧を描くように、アンカーを地面に叩き伏せる。
「ぐっがはぁっ!?…さっきまでと動きが全然違うやん…!」
アンカーが立ち上がれるように、エルとアール、サンダーはマスク・ド・ドラゴンに
向かいサポートする。
しかし、完全に見切られているようで、エルとアールの攻撃を避けていく。
「…えっ…な、何で…アタシの攻撃…かないっ」
「くそっ‼そんなのありかよっ!こいつ、人間のはずだろぉっ!?
何で何で‼
ボクの攻撃が通じないっ!」
マスク・ド・ドラゴンの速度と力は明らかに常人の枠を超え、
二人の連携は通用しない。
一方でパンドラだけは表では動揺を見せず、マスク・ド・ドラゴンと対峙した。
「はぁ…はぁっ…ふぅっ…」
「中々な力ですわね…ですが…限られた時間だけでは?(そうでなかったら
…反則的な強さですわ…)」
「はぁ…あなたには…関係ないでしょ…はぁっ…」
パンドラの狙い通り、マスク・ド・ドラゴンはまだ完全に新たな力をコントロールできていない。
それでも彼女はわずかな隙をみつけ一気に距離を詰める。
「あなたたちの企みを、今日ここで終わらせる!」
「くっ!…あぁっ!」
パンドラは後方に飛ぶようにして受け流そうとする。
しかし、完全には勢いを殺せず吹き飛ばされる。
「…やはり…強いですわね」
「はぁ…はぁ…」
「…何やら…すごい光景だな…」
「すご…金ぴかなのだっ」
「っ…はぁ…フェニックスっ…(このタイミングで…)」
互いの激しい攻防戦の中、蝶々とパンドラたちがマスク・ド・ドラゴンと対峙する。
「フェニックス様っ!」
「…ご苦労…パンドラ、アンカー、サンダー、エル、アール…私たちの計画は
完了だ。撤退しろっ」
「了解」と彼女たちはマスク・ド・ドラゴンから撤退していく。
撤退する不死鳥の羽たちを追おうとする彼女だが、ガタっと片膝をつく。
「ま…くぅっ…はぁっ…(もう…私も限界見たいっ)」
「…マスク・ド・ドラゴン。
この勝負はお前に勝ちを譲ろう…だが、私の計画はすでに完遂している。
また…いずれ会おう」
蝶々とパンドラたちが去ると同時に、金色の体が元のアーマーに戻り、
変身が解かれる。
「はぁ…はぁ…この力をコントロールできれば
…不死鳥の羽に勝てる…」
―――
簡素は、会議室に座る蝶々と幹部たち。
マスク・ド・ドラゴンに敗北したが、その顔には焦りはない。
「それで…例の〇〇町の様子はどうだ?」
「はい」と真剣な顔のパンドラが報告を始める。
「水道局を占拠し、例の薬を投入しました。今頃、洗脳薬が
溶け込んだ水を町の人たちは飲んでいるころですわ♪」
「そうか」と手を顔の前で組み笑みを浮かべる。
蝶々たちは2つの作戦を同時進行させていた。
1つは、蝶々とピエラでマスク・ド・ドラゴンの相手をする囮。
もう1つは、闇に紛れ水道局を制圧するパンドラたち。
後者の作戦が最優先だった。
蝶々の読み通り、マスク・ド・ドラゴンは蝶々たちの元に
出現したおかげで、パンドラたちは水道局に洗脳薬を投入する作戦は成功した。
「今頃、あの町の人々は私たちの駒ね」
「私たちの町の完成、というわけだ…」
「『怪異』の奴ら、マスク・ド・ドラゴンが勝ったって
喜んではりますわ♪
ほんま、アホやなぁ…メンバーにスパイが紛れこんでるのに…♪」
『怪異』たちが喜んでいるのもつかの間、ある町で人々が不死鳥の羽を
信仰する事件が起きる。
不可解な事件として日本中がニュースで取り上げたが、『怪異』たちはすぐに
不死鳥の羽の仕業だと察するのだった。




