第十九作戦:不死鳥の羽…飛翔する!
警視庁公安部第九十九怪異事件特殊対策課がある場所は警察署の
奥の奥に設立さている。
複雑に入り組んだ通路を抜け
二重、三重のドアロックを解除することで到達できる。
そこまで広くはないが、綺麗な捜査室にいるのは3人。
「以上。報告終了します。
東郷警部っ!」
姿勢を正し敬礼する相模原虎徹警部補。
隣に立つ赤根司巡査部長も同様に上司に敬礼する。
「…うむ…白、か」
顎鬚を弄りながらつぶやく白髪交じりの坊主頭の男性。
彼こそ、警視庁公安部第九十九怪異事件特殊対策課のリーダー。
東郷大五郎だ。
鋭い眼光は相模原が作った報告書に向いている。
「はいっ。サーカスの裏手から侵入し隅から隅まで調べましたが、
何も出ませんでした」
「はいっ。右に同じくっ。悪の組織の影すらありませんでしたっ」
赤根。お前もか?と視線を送ると彼も相模原に同意した。
「目星のつけた3つが白となると…別の会社を調べる必要が出てくるな…
はぁ…」
東郷は目をつむり眉間を指で押さえる。
「まさか…数十年沈黙を貫いていた『不死鳥の羽』が活動を再開するとは…
ご苦労。相模原、赤根…今日は帰って良い。
追って指示する」
「「はいっ」」
再度、敬礼してから相模原たちは捜査室を後にする。
―――
「不死鳥の羽…お前たちは一体どこに潜伏している…
…ん?私だ」
「東郷さん。私です…」
「おぉ…マスク・ド・ドラゴンくん…君か」
スマホの着信に気付いた東郷は通話ボタンを押して
会話を始めた。
声の主は若い女性で、それだけなら男は嬉しいかもしれない。
ただ東郷の顔は真剣そのものだ。
なぜなら東郷の通話相手はマスク・ド・ドラゴン(竜面寺たつみ)だったからだ。
マスク・ド・ドラゴンは警察ではない。
云わば捜査協力者だ。
数十年前からマスク・ド・ドラゴンは『怪異』に協力し
不死鳥の羽と戦っていた。
「お時間大丈夫でしょうか…?」
「あぁ…大丈夫だ。…不死鳥の羽についてだね…?」
「はい。不死鳥の羽の情報があればお願いします。このまま不死鳥の羽を
野放しにしているわけにも行きませんから…」
正義のために働いてくれるヒーローに手助けできない歯がゆさに
言葉に詰まる東郷。
「…情報がないの、ですね…」
「あぁ…私たちも情報を開示したいのはやまやま何だが…」
「いいえ、お気になさらず…」
「すまない。
さきほど目星のつけた会社や施設を調べさせた結果は…白。
一からやり直しだよ」
やれやれと東郷は頭を掻く。
「分かりました。では、また何か情報があれば
よろしくお願いします」
スマホを切りゆっくりと机に置き東郷は呟く。
「早めに対処しなければ…奴らの勢力は拡大する一方だ…」
―――
『怪異』に踏み込まれる想定をし、別のアジトで蝶々たちは作戦会議を
開いていた。
蝶々は眉間にシワを寄せながら、幹部たちの様子を見渡していた。
サーカスを隠れ蓑にした悪事も、今のところ大きな成果は出ていない。
資金は確実に増えつつあるものの、どこかピンとこない歯痒さがあった。
「…結局、このままじゃ資金だけが大きくなって、
肝心の世界征服は遠のいてる気がするな…」
「蝶々様の言う通り、現在の資産は鳥子様から受け取った遺産を
優に超えてますわ」
「銭はいくらあっても困らんしええやろ♪
金さえあれば何でもできるって言うしなぁ」
「もぐもぐ♪〇ンタッキーが毎日お腹いっぱいに食べれるなら
ピエラちゃんはそれが一番なのだ♪」
「アタシも毎日ゲームソフト買えるのはほんと最高ね」
「…う、うん…」
幹部たちも資金が増えることに何ら問題ない様子。
蝶々も元々は遺産が目当てで悪の組織の首領になった口のため
資金が増えるのは、むしろあり難い。
「このままでは…ダメ、だな」
けれど、蝶々は静かに呟いた。
今までは金のために動いていた蝶々だが、今では悪の組織の運営も
楽しんでいた。
「えぇ…このままではダメ、ですわ…」
パンドラが真剣な表情で蝶々にすり寄っていく。
やがて、蝶々の眉間に皺が寄っていく。
「はぁ♥やっぱり1日1回は蝶々様のお尻を触らないとわたくし
ダメになってしまい―――」
セクハラしては蝶々に頭を吹き飛ばされるパンドラ。
「パンドラ…」とあきれている幹部たちを無視して
蝶々はアンカーに視線を移し話しかける。
「アンカー。『怪異』のネズミたちがどうなったか教えてくれ」
「了解や」とゆっくり立ち上がると蝶々たちに報告する。
「まず、捜査員たち6人の洗脳は完璧や。察の細かな情報をどんどん
送ってくれますわぁ。スパイ様様やなぁ。
もちろん、洗脳を弱めた捜査員もいてますわ」
「うん。…これで、スパイが見つかってもしばらくは捜査をかく乱する
ことができる。
…良くやった」
「おおきに」
「今後、どうするのよ、蝶々っ」
早く本題に入りなさいとエルは子供ように机をバンバンと
叩きながら足を交互に揺らす。
「本題に入ろう。
私たち『不死鳥の羽』がこの町を制圧するっ」
蝶々は、テーブルの中央に地図が広げると指をさす。
「今回の作戦…失態は許されないぞ…?それを肝に銘じろ…」
その一言に、幹部たちはそれぞれ蝶々に視線を向け姿勢を正す。
「制圧ってことは…力ずくで行くってこと?
アタシ、そういうシンプルなのキライじゃないけど?」
「…エルは深く考えないから…」
「はぁ?アールのくせにっ」
「ひぃっ…」
椅子に浅く座り、余裕の笑みを浮かべるエルとアールはそれにツッコミを
入れ漫才が始まるが蝶々はパンっと手を叩き話を戻す。
「力づく…まぁ、悪の組織としては正しい答えだが
それでは人間たちの反発を招くだけだ。
私たちの目的は単なる支配ではない。"誰もが抵抗せず、自然に従う"
――それが理想だ。」
「ケンタッ〇ーを餌にすれば従うと思うのだっ!」
「それはピエラ…あんただけやろ…。
自然に従わせるならうちの出番やな。
うちの調教術で町の奴らを全員、悪組織に従わせ足るわっ」
尻尾が成るわぁと、尻尾をびしびしと床にたたきつける。
「ピエラの案は…うん…だが、アンカーの案は悪くない。
ただ、人が多すぎることが問題だ」
「そうやなぁ…うちでも1度に20人が限度やな…」
「ボス…ボクの案をき、聞いて貰えます…?」
震えながら手を上げるアール。自分から意見を出すのは珍しいため
全員がアールに注目する。
「どうした、アール?」
「珍しいですわ…アールから手を上げるなんて…」
「えっと…ね、町の水源を押さえれば、生活を人質に取れる…と思う。
町の中心に水道局があるから…効率的じゃない…かと…思い、ます…はい」
「いい着眼点だな、アール」
「えへ…あ、あと。これを…」
うつ向いていたアールがゴソゴソと
青と緑が入り混じった小さい玉を取り出す。
「洗脳薬を改良したんです…アンカーに手伝ってもらって」
「あぁ。それか。中々大変だったなぁ…」
「何よ。それ?前の飴玉と似た感じだけど?」
「ぜ、前の洗脳薬は洗脳をしやすくするってだけの物だけど
今回は…別。水に溶けやすい成分で作られてて――」
「簡単に言えば超洗脳薬やなこれを水源を大量投入して洗脳水と
して町の奴らに飲ませればあら不思議♪
不死鳥の羽の戦闘員が大量生産できるって寸法や!」
相変わらず、薬の製造工程をアールに問うが「企業秘密」と
黒い笑みを浮かべる。
そして、アールが「ただ欠点が」と付け足す。
「ただ…強すぎるからか、アンカーが調教した人と違って
感情がなくなります…スパイとか細かい所では使えないのが…
難点です…」
喉を抑え「しゃべりすぎた…のど…いたい」とアールは話を終える。
「決まったな…私たちは水道局を掌握する。そうすれば、
町は我々に屈せざるを得なくなる」
「へぇ、いいじゃない。アタシが活躍する場面もちゃんと用意してよ?」
「ボ、ボクは…活躍しなくても…」
「お前たちが前線に立てば、敵は混乱する。
期待しているぞ、エル、アール」
「まっかせなさい」「は、はい…」
「そんで、戦闘員たちはどうするんやぁ?」
「50…そのくらいで良いだろう。どうせ、奴…マスク・ド・ドラゴンが
やってくる。戦闘力のない戦闘員では焼け石に水だ…」
最後に蝶々が地図を指で撫でながら、静かに宣言する。
「作戦を開始する。計画通りに進めろ…
私たち不死鳥の羽』はこの町に爪痕を残す――いいな?」
幹部たちは一斉に頷き、会議室には緊張感と共に、確かな覇気が漂っていた。。




