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第百十三作戦:不死鳥&ヒーローVSバグズ7



夜の闇に、二つの影が静かに浮かび上がる。


冷たく澄んだ月明かりが、まるで舞台照明のように彼女たちを照らしていた。


一方は、気品と妖艶さを兼ね備えたパンドラ・アンバランファス。

不死鳥の羽の幹部であり、スライム型の怪人だ。


優雅に仕立てられた紫紺の服を身にまとい、艶やかな青い長髪を夜風に靡かせる。

彼女の微笑みには余裕があり、その瞳にはどこか楽しげな色さえ浮かんでいた。


「うふふ♪」


鈴のような笑い声が、静寂の中に響く。


もう一方に立つのは、異形の美しさを誇るバグズ幹部のカマキリ型怪人--レディマンティス。


エメラルドの肌は滑らかに光を反射し、しなやかに引き締まった肢体の上には、薄く光沢を帯びた外骨格が浮かび上がっている。その背には折りたたまれた鋭利な翅。そして、何よりも目を引くのは、しなやかでありながらも恐るべき鋭さを秘めた鎌のような腕だった。


彼女もまた、鎌を袖のようにして、微笑む。


「ホホホ♪」


穏やかな笑みとは裏腹に、二人の間には鋭い殺気が渦巻いていた。


互いの存在を正面から受け止めるように向かい合い、静かな空気の中で、言葉を交わすことなく圧力をぶつけ合う。


静寂を切り裂くように、優雅な声が響いた。


「……どうやら、わたくしの相手はあなたのようね…」


パンドラ・アンバランファスが余裕の微笑みを浮かべ、顎をすっと持ち上げる。その動作には気品と自信が満ちていた。


対するレディマンティスは、楽しげに口元を歪める。


「ホホホ…そういうことですわねっ」


その笑みには、隠しきれない闘志がにじむ。


パンドラは、静かにレディマンティスを見つめた。


「初対面になるのだけど、わたくしと…貴女…似てると思わない…?」


その問いに、レディマンティスは片手を腰に当て、挑発的な笑みを深める。


「奇遇ね…アタクシも初めて見た時から思ってたわ…でも…」


艶やかに光るエメラルドの鎌がレディマンティスの顔を映す。

まるで、自身の顔を確認するかのように。


「美の格が違うわねっ…もちろんアタクシが上で貴女が下よっ!オーッホホホ!!」


その言葉とともに、鋭利な鎌の形をした手がパンドラを鋭く指し示す。


パンドラのまぶたがわずかに動いた。


「は…?」


その声には、僅かながら冷たい棘が含まれていた。


わずかな沈黙が場を支配する。



―――



闇夜に響く妖艶な笑い声が、沈黙を切り裂いた。


「…うふふ♪ 何を言うと思ったら…貴女の目は節穴かしら…?」


パンドラ・アンバランファスは余裕の笑みを浮かべると、ゆっくりと腕を組み、その動作に合わせて豊満な胸を強調するように突き出した。艶やかな紫紺の衣の下で、ふるふると揺れる圧倒的な存在感。


まるで誇示するかのように、それを真正面から見せつける。


「見なさい!わたくしのこの完璧なバストが見えませんの…?」


その余裕たっぷりの態度に、レディマンティスは鼻で笑った。


「…ふんっ! …くだらないわ!」


嘲笑するようにくるりと背を向けると、エメラルドの外骨格に包まれたしなやかな肢体を揺らしながら、優雅に歩を進める。そして、わざとらしく腰をくねらせ、持ち上がった美しいヒップを強調した。


「見なさい!この美しいヒップこそ、真の魅力! 胸なんて単なる無駄な脂肪の塊でしかないのよ!」


その言葉に、パンドラの眉がぴくりと動く。


「はあ!?どこを見てものを言ってるのかしらっ…?」


「いいえ、貴女こそ目を覚ますべきよ。オスは結局、お尻に惹かれるものなのよっ!」


レディマンティスが腰に手を当て、得意げな表情を浮かべながら言い放つ。


パンドラは大きくため息をつき、肩をすくめた。


「わたくしは男になんて興味ないわ。でも、コレだけは言えるわ。この地の男は巨乳が好きなのよっ!」


レディマンティスは余裕たっぷりに笑い、鎌を優雅に振る。


「ホホホ♪ そんなに言うなら、美胸と美尻…どちらが上か決めようかしら…?」


「望むところよっ!」


互いに睨み合いながら、妖しく笑う。


――激しい戦闘よりも先に、激しい舌戦が始まった。


長く、そしてどうでもいい論争が続く。


互いに美の定義について持論を語り、胸と尻、どちらが至高なのかを激しく主張し合う。


2人が胸と尻を強調するポーズを取り合い、挑発し合う。


相手に自らの美を認めさせようと、互いのプライドをかけた舌戦は、戦闘よりも遥かに熾烈なものとなっていた。


――だが、ようやく。


「はぁ…はぁ…」


「はぁ…はぁ……いい加減、決着をつけようかしら…?」


レディマンティスが静かに言い放つと、その長く鋭い鎌が鈍い光を帯びる。

彼女のエメラルドの肌が夜の暗闇に浮かび上がり、戦意に満ちた眼差しがパンドラを射抜いた。


「…ええ、それが本題でしたわね」


パンドラは余裕の微笑みを浮かべながら優雅に頷く。


そして、ゆったりと両手を広げると、彼女の腰からスルスルと二本のスライムの触手が伸びた。艶やかな青色をしたそれらは、しなやかに揺れながら、獲物を捕らえる蛇のようにうごめく。


次の瞬間、レディマンティスが鋭く踏み込んだ。


鎌を高く振り上げ、一気に間合いを詰める。


「ホホホ♪美しさも、戦いも、最後に残るのはアタクシよっ!」


高らかに笑いながら、一撃を放つ。狙いはパンドラの優雅な首元。鋭い鎌が月光を反射しながら、彼女へと迫る。


しかし、パンドラは微動だにせず、薄く笑みを浮かべたまま、しなやかに後方へと退く。


「わたくしに刃を向けるなんて、無粋な虫ケラね…」


彼女の腰から伸びる二本の触手がしなる。


その先端が、突如として妖しく光り、紫色の液体が滴り始めた。


「スライムの酸…とくと味わいなさい!」


パンドラの言葉とともに、触手が勢いよくしなり、酸の滴が弧を描いて飛ぶ。


レディマンティスは鋭い反応で身を捻り、それをかわす。飛沫はすぐ背後の壁に命中し、シュウウと嫌な蒸気が立ち上った。


壁の表面がみるみる溶けていく。


「くうっ……! こんなもの!」


レディマンティスはすぐさま距離を取る。


目の前の敵は、鋭い鎌で斬り裂くよりも先に、その腐食性の酸を武器に攻めてくる。触れれば一瞬で組織を蝕まれる危険な攻撃だ。


しかし、ここで怯んでいては勝機を逃す。


「なら、速さで圧倒するまでよ!」


レディマンティスは地を蹴り、一気に加速する。


その翅が微かに揺れ、彼女の体が流れるような動きでパンドラに迫る。


今度は両の鎌を交差させるように振るい、相手の動きを封じる狙いだった。


パンドラも触手を繰り出し、それを迎え撃つ。


だが、レディマンティスの速度が上回った。


鋭い一閃が、彼女の胸元を捉える。


――ザクリ。


紫紺の衣が裂け、僅かに肌が覗く。


「やったわ――っ!?」


レディマンティスの目が見開かれた。


彼女の鎌が確かにパンドラの胸元を切り裂いたはずだった。


だが、その傷は一瞬にして修復され、まるで最初から何もなかったかのように再生していく。


「まさか……!」


レディマンティスの表情が驚愕に歪む。


「あら、虫ケラは頭が悪いのかしら…?」


パンドラはゆっくりと胸元の裂けた服を整え、優雅に微笑んだ。その仕草は、まるで何事もなかったかのように自然で、余裕に満ちている。


「わたくしはスライムの怪人ですわ…」


そう囁くように告げると、レディマンティスの背筋に寒気が走った。


鎌が切り裂いたのは、ただの布だけ。


肉体には一切の傷がついていない。


何をしても、彼女の体に攻撃は通じない。


忌々しげに睨みつけながらも、レディマンティスは奥歯を噛み締める。


打つ手がない。


このまま戦い続けるのは無謀だった。


「……さて、そろそろ終わりにしましょうか…?」


パンドラが一歩前へ踏み出すと、その歩調はあくまで優雅で、美しく整えられていた。


「…悪いけど、退却させて貰――っ」


レディマンティスは翅を震わせ、即座に後退を試みる。


しかし、その動きを見透かしていたかのように、パンドラの触手が一気に伸びる。


これまでとは比べ物にならないほどの速さだった。


まるで生きた鞭のように鋭くしなり、逃げようとするレディマンティスの頭部を正確に捕らえた。


「……?」


彼女は違和感に気づき、首を振ろうとするが、すでに遅い。


「っ……! その手を離しなさいっ……!」


両の鎌を振り上げ、必死に振りほどこうとするも、触手はびくともせずに絡みついていた。


パンドラは微笑を崩さないまま、しなやかに握る指を強く閉じていく。


「ダメよ。貴女を駆除して愛する蝶々様に褒めて貰うのだから♪」


レディマンティスの瞳が恐怖に見開かれる。


触手が、まるで蛇のようにゆっくりと締め付けながら、じわじわと彼女の顔へと迫っていく。


「うふふっ、これでチェックメイトですわ。」


そして、その触手の指先が、レディマンティスの瞳に当たると――


静かに握りつぶした。


レディマンティスの体が小さく痙攣し、力を失った。


ピクリとも動かなくなった体が地面へと落ちると、パンドラはゆったりと息をつく。


まるで優雅な舞踏のあと、身だしなみを整えるかのように。


「…うふふ。やはり、胸こそが至高ね」


彼女は足元に横たわる敵を一瞥し、ゆっくりと背筋を伸ばす。

堂々とした胸元を誇示するように、彼女は満足げに微笑んだ。


「うふふ♥ 蝶々様にお褒めいただかないと♥♥」


高らかな笑い声が響く。


その音は、静まり返った戦場に溶け込むように、美しく、そして歪んでいた。

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