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時間切れの真相  作者: 東堂柳
新宿区アパート密室殺人事件
2/8

世紀末の密室

 その一報を受け取ったのは、交番付近の警邏の真っ最中でした。夜の八時を回ったころだったかと思います。

 このアパートから何者かに殺されそうになっているとの通報があったと指令本部から連絡を受け、同僚と現場へ急行しました。徒歩ではありましたが、到着までは十分も経っていなかったと思います。現場は二階の左端のこの部屋で、我々が駆け付けたとき、玄関は施錠された状態になっていました。玄関わきの窓から、室内の電気がつけっぱなしになっていることが判ったので、ドアをノックして中に呼びかけたのですが、一向に返事がないため、一階に住んでいる大家さんの部屋を訪れ、合鍵を拝借したんです。

 ところが、鍵を差し込んでも一向に回る気配がありません。わきの窓は擦りガラスになっているのと、格子が邪魔で中の様子が仔細にはわからなかったので、裏に回って外から室内を確認してみることにしました。アパートはブロック塀で囲まれていますので、二階の部屋でもそこに上れば室内の様子を窺うことができます。幸い、カーテンはかかっていなかったのですが、ご覧のようにガムテープで内からも外からもがっちりと格子状に目張りがしてありました。

 これは何か妙だと思いつつも中を覗き込むと――、

 そこで、室内に大量の血痕と、血の付いた刃物が落ちているのを認識しました。

 尋常ではないことが起こっているとわかり、急ぎ窓を割って中に侵入することにしました。もちろん、大家さんにも確認してもらいましたが、この部屋の住人は被害者一人だけで、身寄りもなく他に連絡する先がないということでしたし、血の量から早急に対応すべきと判断し、そのような行動を取った次第です。

 始めは窓の鍵の周辺だけを割って、手だけを突っ込んで内鍵を回そうとしたのですが、こちらもガムテープで固定されているようで、まるで回りませんでした。仕方なく、窓から侵入できるように、もう少し大きく穴を開けたのですが、そこで室内から異臭がしていることに気付いたのです。

 腐った卵のような臭いから硫化水素ガスが発生していると思い、中への侵入を諦め、本部に応援を要請しました。応援が到着するまでの間、万一に備えて周辺の道路を封鎖し、周辺住民への避難誘導を行っていました。

 十分か、十五分ほどした頃でしょうか。

 先程まではガスの吸着処理で応援が大勢来ていたわけですが、どうも付近の商業施設で火災の誤報があり、警察も消防もそちらに人員が割かれていたらしく、最初は消防隊の小隊が二編成来たばかりでした。また、現場は事件の可能性もあったため、我々も装備を借り、扉をこじ開けて一緒に中に突入したわけです。

 玄関扉にもガムテープで頑丈に目張りがしてありました。また鍵穴は――内と外両方に付いているのですが――内側から接着剤で固定されていたので、鍵を回しても動かなかったのも当然のことでした。そればかりか玄関わきの窓も、換気扇にも、頑丈な目張りが施されていて、室内は完全に密閉状態でした。

 部屋に人影はありませんでしたが、トイレの扉に鍵がかかっているのを確認したので、そちらも応援の消防隊にこじ開けてもらって、――死体を発見したというわけです。

 つまり現場は二重に密室になっていた状態。硫化水素ガスも充満していたので、内心では自殺だろう――通報も自殺を止めてほしいという心情の表れだったのではないかと踏んでいたのですが、死体を見たときは動転しました。

 なにせ、ご覧になられた通り、被害者の頭部は切断されていたわけですから。

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