063 「人間の大地」に息づく物語
ファンタジーより童話の範疇に入るかもだが、昔話や寓話などは、小説を書くうえでよき発想をもたらしてくれるものが多く、格好の資料である。
例えばざまぁ系。
復讐や加害者の破滅の有無という違いはあるが、劣ってると思われていた主人公に実は秘密があって、なんやかんやあって覚醒して、自分の価値が証明される点は「みにくいアヒルの子」と似ている。
そういう具合に、物語のパターンは今も昔も大して違わないものだ。しょせん人の本質など同じということか。
内容の類似は洋の東西も問わない。今回は、北海道の先住民アイヌの伝承に多数存在する、パナンペとペナンぺのお話を紹介してみよう。
「パナンペ(個人名ではなく、『川下にある者』の意。つまり川の下流近辺にある村の住人)があった。ペナンぺ(同様に上流に位置する村の人)があったのであった」
毎回同じ出だしで始まるこの寓話、話のパターンも同じなので簡単に書くと……
①貧しい暮らしをしていたパナンペ、何らかの幸運により大きな成功をおさめる。狩で大物をしとめるとか、財宝を手に入れるとか
②ペナンぺ、それを聞き「貧しかったのに、どうやってそんな大金持ちになったのか?」と訊ねる
③パナンペ「まあ聞きなよ、上手くやって儲けなさるがいい!」と親切に教える
④それでも貧しいパナンペの成功が妬ましかったのか、ペナンぺは悪態をつきながら去ってゆく
⑤パナンペ、「へん、さぞ上手くいくだろうよ!」と(もちろん「上手くいくものか!」という皮肉)恩知らずのペナンぺをなじる
⑥ペナンぺ、欲を出しすぎて失敗する。宝を持ちすぎて重さで逃げ切れず捕まってボコられるとかそんなパターン
⑦ボロボロになって帰ってきたペナンぺを見てパナンペ、「おやまあ、上手くやって大層儲けなすったね!」と嫌味たっぷりの嘲笑
⑧ペナンぺ、死ぬ。瀕死で済むときもある
⑨ナレーションで「これを聞いてペナンぺ(紛らわしいが、川上の村に住む別人)は、こうならぬように注意せよと子供らに伝えた」と締めて終わり
お気づきのとおり、典型的な「正直じいさんと意地悪じいさん」のお話だ。和人、つまり我々大和民族との交流により本土の昔話も伝わってはいようが、アイヌにも性根の腐った者は当然いたわけで。いや、パナンペも割といい性格してるけど……
また、この寓話は狩猟民族のアイヌにとって、獲物をとりすぎるなという戒めであることも察せられる。乱獲は一時の豊かさをもたらしはしても、長い目で見れば獲物の減少や森林の荒廃を招くものだから。
緑豊かなアイヌモシリ(北海道のこと。人間の大地の意)に生きる彼らが、その恵みに感謝しつつ自然と共存してゆく知恵が、物語に込められているのである。
ところで話は逸れるが、毎度同じオチかと思われたこのお話、実は一回だけ結末が違うことがあった。
なんと、パナンペの魔法でペナンぺが女になり、パナンペの妻となる超展開!
今でいうTSだよ! 時代を先取りしすぎだよ! いやペナンぺはもと男だからBL要素もあるのか!? アイヌにも腐女子はいたというのか!?
真相は定かではないが、いつの世にも逆張り野郎は存在したのだろう。もしかしたら、二つのコタンに婚姻同盟が結ばれた隠喩かもしれない。ていうかそうであってくれ。
ファンタジーに話を戻すが、多くの作品はヨーロッパ風の世界が舞台であり、森林が多く冬は豪雪に見舞われるなどの気候的条件は北海道と共通する部分が多い。
なので作者の皆様は、アイヌ文学に軽く目を通しておくと良いアイデアが浮かぶかも。頭の隅っこにでも入れておいていただけると幸いである。
銀の滴降る降るまわりに……
金の滴降る降るまわりに……
調べてみたら、ゴールデンカムイなる漫画でもこのお話が紹介されてた。なので今さら投稿する必要もないのだが、書いてから気づいたので仕方ない。




