045 神様も女性を敵に回すと痛い目に遭う
3話で語った「ロランの歌」と関係する話題だ。
ロランたちは死んだが、角笛を聞いて駆けつけたシャルル皇帝の本隊が敵を撃破、異教徒の王マルシルは命からがら逃げ帰る。
そして血まみれの夫を見て、マルシルの后ブラミモンドは「こんなご利益のねぇ神様なんぞ要らんわぁ!」とブチ切れ、シャルルの側から見て悪の神々……アポラン、マホメ、テルヴァガンの像を破壊するのだ。
なんともツッコミどころ満載。異教徒に対する無知がにじみ出てますな。アメリカ人が想像するニンジャかよ。
細かいとこは文字数の都合で省略するが、気になるのは三柱の一角、アポランである。
どう考えてもギリシャ神話のアポロンだよね?
オリンポス十二神の一柱がいつ悪神に? と言いたいところだが、この扱いはある意味で仕方ないことかもしれない。
ご存じの方もおられようが、アポロンは女性関係に大変だらしない。なのに妹のアルテミスがオリオンといい雰囲気になったら怒るなど、身勝手な言動もある。
ダフネという乙女に嫌われた時など、しつこく追いかけている。アポロンの恋心もダフネの拒絶も魔法の矢に心を操られていたものだが、追いかけた行為自体は誉められたものではないだろう。
極めつけはトロイアの王女カサンドラへの仕打ちだ。これも知ってる人が多いと思うので簡単に記述すると、
①アポロン、カサンドラに恋し、予知能力を授けるから私の彼女になってと口説く
②カサンドラ、試しに未来を見たらアポロンに捨てられ泣いてる自分が見えた
③カサンドラ「ごめんなさい」
④アポロン「予知能力やって損した! でも今さら返せとは言えないし……。よし、誰もアイツの予言を信じないようにしてやろう」
である。かくしてカサンドラは木馬に敵が隠れているという言葉を信じてもらえず、トロイアは陥落する。だったら「木馬には誰も隠れてない、我々は勝利した」と言えばよかった気もするが、そこは置いとこう。
いきなり話は変わって、アポロンと双璧をなす下半身無節操男ゼウスの所業を少しだけ見てみたい。
彼は美貌の乙女カリストを見初め男児アルカスをもうけるが、嫁のヘラはこれに激怒しカリストを熊に変えた。息子と一緒にいられなくなり、カリストは去ってゆく。
月日は流れ、森の中で母と子は再会した。だがアルカスには眼前の巨大な熊がカリストとは分からぬ。
「今夜は熊肉のシチューだ」
弓を構えるアルカス。なんたること、このままでは母殺しの大罪を犯してしまう!
咄嗟にゼウスはアルカスを熊に変え、母とともに天に昇らせた。これが現在の大熊座と小熊座である。
つまりゼウスは、浮気がバレて別れさせられた後もカリストとアルカスを見守っていたということだ。
さてアポロンに目を戻してみよう。自業自得でカサンドラに振られたのに逆ギレし、一度与えた予知能力を事実上取りあげる嫌がらせをしている。
辛辣な言い方になるが、ゼウスに比べ男としての器が小さい感は否めない。カリストはゼウスを拒んでいない点を考慮に入れてもだ。
ダフネの件といい、この辺りが世の女性から反感を買い、悪神にされてしまったのだろうか。男尊女卑の時代でも社会の、信徒の半分が女性である以上、その機嫌を損ねたら扱いが悪くなるのは仕方ない。
オリンポスの神々は、いまや信仰でなく芸術の世界の住人といってよい。そして近年、創作の界隈で女性の影響力は大きくなっている。ロランの歌が書かれた時代に「女の敵」というレッテルを貼られたアポロン、彼の名誉回復の道は険しそうだ。
ただ、アポロンよりはマシってだけで、しょっちゅう不倫してるゼウスも大概よね。悪の神様扱いされる前に、少しは慎みを覚えてほしいものである。
ヘラ「普通ならとっくに三下り半よねえ……でも私結婚を司る神でもあるのよ、それが離婚ってのも体裁が悪いし……」




