036 禁じられた魔法
ファンタジー小説やRPGには様々な魔法が登場し、作品の大きな魅力となっている。
そしてだいたいの場合、味方、善玉キャラは使わない、悪役だけの魔法というものがある。禁呪や黒魔法と呼ばれるものだ。
単に制御が難しすぎたり、強力すぎて周囲にも被害が出る攻撃魔法もあるが、非人道的、ないし神を冒涜するようなものが多い。死者をゾンビにして使役したり、悪魔に魂を売るかわりに強大な力を得たりするのは、誰がどう考えてもこれに該当する。
が、作品によって扱いが違うものもある。それは筆者の価値観や、作品のテーマを反映しているのだろう。だから魔法は難しく、そして奥深い。
たとえば心を操る魔法。隷属の首輪とかああいうの。かくいう私も、以前書いた(こと自体をほぼ忘れていたが)習作にこの手の魔法を登場させた。そういえば願いを叶えるランプの魔神も、人の心を操るのはダメだと言っていたっけ。
しかしゲームには、よく魅了の魔法が出てくる。おもにNPCとの交渉を有利に進めるためのものだが、これは心を操る魔法がタブー視されていない例といえよう。効果が永続的なものでなく、かつ相手は魅了されている間は上機嫌になるからOKなのかもしれない。
参考にしている本にも、魔法やアイテムで心を操り、それが禁じられていないケースはよくある。
そのひとつ、青い鳥文庫の「魔女の診療所」シリーズでは、魔法の薬で一時的に性格を変える描写があった。主人公ヒアリは(薬をばらまいていたティアラへの不信感もあって)薬で変わることに否定的だったが、魔法界では栄養ドリンク感覚のようだ。
直接的な手段ではないものの、杖を蛇に変えたり石をパンに変えたりと、おそらくは魔法による奇跡で信仰を集めるのも、広い意味で「魔法で心を操る」ことになるのだろうか? もしかしたら異世界でも神学上の意見の対立、宗派の分裂などが起きるかもしれない。
また驚いたことに、RPGでは必要不可欠な治癒魔法がタブー扱いというケースも存在する。それがまさに上記のシリーズで、ヒアリたちが黒魔法と呼んでいたもののひとつが「命に関わる魔法」だった。
人間界でもクローン技術の倫理性は論じられているので、遺伝子操作に相当する魔法を禁ずるのは分かる。だが、ケガや病気を治すのも禁じられていたのだ! おばあちゃんは「命まで自由にしようとするのは魔法使いの思い上がり」と言って、治療の際に魔法を使わなかった。
ウィザードリィの小説だと、解毒や治療、生き返りといった、まさに命に関わる魔法が発展したため、エルフは不死ではなくなったという。
本来死んでいたはずの個体が魔法で助かれば、少なくともその個体には補食されなかったはずの生物を殺す。さらに、生まれなかったはずの子孫が増え、鳥獣を食い木を切り倒すことで、加速度的に生態系が壊れる。なのでバランスを保つため、超自然的な修正力によって永遠の命が失われたのだ。
仮にエルフたちが治癒魔法をタブー視していたら、彼らは今も不老不死だったのだろうか。もっとも実際には、老化しないだけで病気やケガでは普通に死ぬから、魔物の襲撃や戦が絶えないウィザードリィの世界で何千年も生きられる個体は滅多にいないだろうけど……。
科学文明もそうだが、何でもできるからといって、それが必ずしも幸せに繋がるとは限らない。
おばあちゃんが言っていた「黒魔法の全てが悪ではないが、行きすぎた魔法は身を滅ぼす。魔法はいつか自分の身に戻ってくる」という言葉の意味を、我々はよく考えるべきではないだろうか。




