030 シャリヴァリに見る中世の楽しみ
日本におけるRPGの人気を決定づけた作品、ドラゴンクエスト。ご存じの方も多いと思うが、このシリーズには楽器系のアイテムがよく出てくる。
初代だと魔物を引き寄せる銀の竪琴、ゴーレムを眠らせる(実際には魔法生物であるゴーレムは睡眠を必要としない。おそらく機能を停止させる信号が笛の音なのだと思われる)妖精の笛。2では紋章のある場所で反応が返ってくる山彦の笛……といった具合だ。
これらを使って、「おや?」と思ったことはないだろうか。そう、誰も彼もが見事に演奏しているのである。
セガの「ファンタシースター2」では、キーボードで楽曲を演奏する形式のパスワードを入力するために、音楽家の先生からピアノを習わねばならなかった。つまり宝箱からゲットしてすぐ楽器が使えるドラクエ世界の住人は、皆ある程度の演奏スキルを持っているのだ!
なぜゆえ? 思うに、中世レベルの文化である世界と、SF世界の差だろう。ぶっちゃけて言うと、娯楽の数が、種類が違う。
今日でさえ、そこら中にあらゆる娯楽が溢れている。ファンタシースターの世界なら尚更だろう。主人公を含め、仲間たちは誰も楽器演奏の趣味を持っていなかったのだ。
おかしな話ではない。あなたの友人が七人集まったとき、楽器を演奏できる人が何人いるだろう? たぶん、誰もできない、楽譜も読めないパターンがいちばん多いのではなかろうか。
だがドラクエの舞台となる中世は娯楽が少ない。スマホもコンピュータゲームも、漫画も映画も、交通が不便だから各地で試合を行うプロスポーツのリーグもない。なろうで主人公がリバーシを作ったら大流行するのは、ひとえに新しい遊びに飢えているからだ。
そんな退屈な世界で、人々の慰めとなるもの。それが音楽である。
文字を持たない民族はいても、音楽を持たない民族はいないそうだ。音楽や歌は、人の本能に刻み込まれた、根源的な喜びなのだろう。
さて、ようやくシャリヴァリの話だ。私も本で読んだだけでよくは知らないし、複数の意味を持つ言葉のようでもあるが、その本によると年長の男性が若い嫁をもらうと決まったとき、家にむりやり押しかけて大騒ぎする? らしい。
挿し絵を見る限り、殺伐とした雰囲気ではなかった。闖入者はみな犬、猫、羊、猿など動物のお面をかぶり、手に手に楽器を携えて、陽気に歌い、踊っている。同世代の女の子をとられたやっかみも少しはあろうが、基本的には祝福の儀式のようだ。
これとてある程度は楽器を演奏できないといけない。娯楽の少ない中世において、人々が音楽に癒しと楽しみを求めていたことがうかがえる。
宗教的な儀式などでも音楽は欠かせない。ドラクエ世界の人たちがみな楽器を使えるのは、収穫祭などで神や精霊を讃えるため、演奏が必須スキルなのかも。
音楽に親しむのは一般人に限らない。むしろ死と隣り合わせの戦士こそ、妙なる調べにひとときの安寧を求めることもある。中世騎士物語だとトリスタンは竪琴が得意だったらしいし、わが国でも織田信長や武田信玄など、歌舞音曲を好んだとされる武将は多い。もしあなたがファンタジー小説を書いているなら、吟遊詩人以外のキャラに楽器を使わせてみるのも面白いだろう。
中にはギターを凶器として使うお姫さまとか、ハープで寿司を切ったりする料理人がいるかもしれないが……。




