027 銅の剣しかくれない王様はケチなのか
RPGの疑問、定番中の定番を考えてみたい。すなわち……
「王様はなぜ、世界の命運を託す勇者に銅の剣や桧の棒しかくれないのか」である。
これはよく話題になるので、様々な説をご存じの方も多かろう。私も複数の理由を考えている(それぞれの王様ごとに考えや懐事情は違うはず)が、よくありそうな理由としては、
「無茶をさせないため」
「序盤の収入では剣の維持が大変(13話参照)」
「過去の勇者の旅立ちや神話を再現する儀式」
あたりかなと思っている。
無茶をさせない云々は簡単だ。レベル1でも最強装備ならザコは問題なく倒せる。だが所詮はレベル1、遅かれ早かれ複数の敵に先制攻撃されたり、装備の防御力無視の罠とか毒で詰む。
あなたはきっと「流石にそんなアホはいねーだろ」と言うだろう。だが人間は都合よく「自分だけは大丈夫」と考える生き物だ。アホなのだ。もしかしたら実際に調子こいて自滅し、魔王軍に強力な武器を奪われた戦犯がいた可能性すらある。敵の宝箱に入っているアレだ。
儀式説も容易に推測できる。地球ではダビデがゴリアテを倒したのは投石紐で飛ばした石、ヘラクレスの得物は偶然いい枝ぶりだからその場で切った樫の棍棒。しかもネメアの獅子には通用せず折れたので、最後は素手で絞め殺す。テセウスが愛用するのは初勝利を記念して大事に持っていただけで、物自体は単なる鉄の棒だ。異世界にも石器時代や青銅器時代は当然あったはずだから、事情はそう変わるまい。
もっとも、ダビデとテセウスはともかくヘラクレスがこれを間に合わせの武器と考えていたかは分からない。青銅の剣や槍しかない時代、樫の棍棒は最強とまではいかずとも、かなり強力な武器だったろうから。
ああそうか、太古の勇者が「最強武器」として銅の剣を渡された事実が形骸化し、「かつて勇者が旅立ちの際に貰った武器」として渡されるのか? 偉い人は前例にとらわれ融通が効かない、どこも同じねぇ。
余談だが、ヘラクレスが絞め殺したのは獅子だけではない。巨人アンタイオスも犠牲者だ。この戦士は大地の神ガイアの子で、肌が地面に触れている間はエネルギーが供給され無敵となる。なのでヘラクレスは彼を持ち上げて倒したという。
この記述から私はてっきりプロレスでいうネックハンギングツリーと思っていたが、発掘された彫像だとベアハッグだった。獅子を殺ったのはフロントネックロックだ。
話を戻そう。つまり勇者が伝説を再現する形で旅立つのは、儀式であると同時に、魔王に怯える民へのパフォーマンスなのだ。「ワルキューレの冒険」のゾウナは人の恐怖心を活力源としていたが、ここまで直接的でなくても希望を持たせることは重要だ。
王様は王様なりのやり方で魔王と戦っている。ケチなどと言ってはいけない。
それにしてもヘラクレスは凄い。アントニオ猪木に先駆け、神話の時代にプロレス最強説を証明するために闘っていたとは。しかも熊より強いであろうネメアの獅子を相手に! ウイリー・ウィリアムスも真っ青だ。元気があれば何でもできるのである。
銅の剣が買えない120ゴールド(あと松明と鍵)しか貰えなかった勇者は、最高レベルまで鍛えれば丸腰でも竜王を倒せると聞く。勇者は武器がなくても強いから、ヘラクレスのように自分自身が最強の武器だから勇者なのだ。
主人公に特別感を出す聖剣とかもいいが、こういった方向性があることも頭の隅に入れておき、たまには普通の武器によるバトルシーンを入れてみるのも面白い。アーサー王物語のランスロットも、借り物の装備で戦ったことが何度かある。
でもランスロット、ケイが寝てる間に勝手に武器持ってったのは窃盗罪だよ。




