023 番外編 コーエー歴史ゲーム・激闘(?)の記憶
歴史ゲームの老舗コーエー、現コーエーテクモゲームス。これを読んでいる皆さんの中にも、信長の野望や三国志をプレイしている方がいるだろう。同盟などの戦略や陣形などの戦術はファンタジーものにも応用できるので、小説のネタにもなるし。
さて今回は気分転換回。一旦ファンタジーを離れ、そんな歴史ゲームの思い出を語ってみたい。
数あるコーエー作品の中で、私がもっとも印象的な……というか忘れがたいエンディングを見たのが、項羽と劉邦の戦いを題材とした「項劉記」である。項羽でプレイした時のことだ……。
━━━━━
ついに迎えた最終決戦。総大将にして最強武将の項羽みずから先陣を切る楚軍は、味方の活躍もあり劉邦軍を追いつめてゆく。待っていろ劉邦、鴻門の会で叩き斬っておかなかった過ち、ここで償ってくれん!
もはや劉邦軍にとっては、本陣強襲による一発逆転しか望みはない状況。ここで樊カイ(カイの字が変換候補にない)が、身の程知らずにも項羽に一騎討ちを挑んできた。
「ああ、誰かと思えば、鴻門の会で乱入してきた大食い男か。酒の呑み比べでは負けたが、ここは宴席ではなく戦場だ。貴様ごとき下郎が俺と刃を交える栄誉を得られるとでも思ったか? 去れ」
と言いたいところだったが、なんと項羽は勝手に一騎討ちを受けてしまったのである! ボタンの押し間違いではなかったはずだ。
いやいや待て待てちょっと待て。なに勝手に受けてんの。コントローラーを握ってる間は私が項羽なんだよ。勝手に決めないで。
ていうか、それ……フラグじゃね?
なんでも、当時のスタッフがテストプレイで何百回となく一騎討ちをさせたところ、信じがたいことに体力も武力も60前後の劉邦が、奇跡的に一回だけ両方とも100の項羽に勝ったことがあるらしい。
格闘技で言うなら、マイク・タイソンをKOし「史上最大の番狂わせ」と言われたジェームズ・バスター・ダグラスどころの話ではない。そこら辺の高校の柔道部員が、金メダリストに一本勝ちしたようなものだ。なお三国志だとここまでの大金星は見たことがない。ダメージの計算方法が違うのか?
ここまで書けば察しがつくだろう。はい、項羽負けました。捕虜になりました。
ところが、総大将が捕まったのに合戦が終わらない。項羽の敗北を信じられなかったのか、命令系統が混乱していたのか。事情は知らないが、訓練度と武装度に劣る劉邦軍は、そう劉邦軍の方から、なぜか次々に楚軍に特攻をかけては勝手に玉砕してゆく。あのー、もう戦い終わってんですけど。そして劉邦軍はついに全滅。
「ハッハッハ! とうとうあの忌々しい劉邦めがいなくなったぞ!」
いや項羽、なにドヤってんの。あなたさっきまで劉邦軍の中で縛りあげられてたじゃん。
かくて楚漢の攻防は、なんとも締まらない形で終わりを迎えた。勝利の宴の席で、項羽が虞美人や范増たちからどんな目で見られていたのかは、賢明なる読者諸氏の想像に委ねたい。
━━━━━
事実は小説より奇なりとはよく言ったもんですな。書籍化レベルの作者様でも、こんなアホみたいな結末を考えつく人はあまりいないと思う。架空戦記系を書きたいあなた、コーエーのゲーム未経験ならプレイしてみるのもいいでしょう。予想だにしない展開が見られるかもしれませんよ。
お話として面白いかどうかは別ですが。
ちなみに、タイソン対ダグラス戦が行われたのはドラクエ4の発売日。どーせタイソン勝つだろとゲームに夢中になってた人の中には、翌日の新聞でダグラスの勝利を知って仰天した者もいたとか。




