022 世界の創造神、その名は……
ファンタジー小説に必須ではないが、舞台となる世界が生まれた創世神話が出てきたりすると、物語への没入感を高めるのに一役買ってくれることだろう。
国を興した征服者が敵国を駆逐したのが、後世に神と悪魔の戦いとして伝わったパターンでもいいし、生命を作った神というのは大昔に滅びた科学文明のAIで、今も遺跡で休眠状態なんて設定もありだ。
ヒロインとイチャイチャする口実に利用できたりもする。例えば国王や勇者は神より地上の統治ないし平和維持を委ねられた者であり、神の代理人である証として伝説を再現する儀式を行う、とか。
その国に伝わるのが「神は女神や精霊の助けを得て邪神を倒した。そののち彼女らと交わり天地を創った(大地の女神との間に陸が生まれ、水の精霊と契って海ができたとか)」なんて内容だったりすれば、ハーレムを嫌う人も「これは宗教的儀式」と思ってくれるかも。いかに読者を引き込み、納得させるか。作者にとっては悩みどころだろう。
創世神話といえば面白いやつがある。北海道に伝わるものだ。
世界を創るとき、いちばん偉い神様は太平洋側の海岸を女神たちに、日本海側を男の神々に担当させた。大抵の場合、全知全能の神が一人でやるイメージがあるが、ここは事情が違うらしい。ピラミッドも農閑期の公共事業だったとの説があるが、主神も下っ端の神に仕事を与える必要があったのだろうか?
それはともかく、女神たちは毎日せっせと土をならしたり岩を片付けたりと真面目にやっていた。太平洋側になだらかな砂浜が多いのはこのためだ。
ところが男の神々は期日ギリギリまで海水浴や魚釣りに夢中で遊び呆けていた。気づいた時には〆切前日、浜辺はな~んにも出来上がっていない……。
自業自得なのは置いといて、すわ一大事。彼らは大慌てで岩を持ち上げ土をほじくり、突貫工事のやっつけ仕事でどうにかこうにか浜辺らしきものをでっち上げた。日本海側に岩場が多いのはこのためという。
女神たちの「ちょっと男子~! 真面目にやんなさいよ」という声が聞こえてきそうだ。この時代から男はアホだったらしい。
しかし、完成後視察にきた弁天さまは、ゴツゴツしたまっ黒い岩に波がぶつかり、パッと純白のしぶきが散って、金色の陽光に照らされ、七色の虹がきらめく光景を見て、「荒々しさと優しさの出会い。これはこれで美しい」と感心したそうな。
さすが芸術の神と言いたいところだが……騙されてません?
なお日本海側を担当したのは女神で、当初は真面目にやっていたが別の女神が来たのでつい長話し、納期直前までおしゃべりに夢中だったという説もある。そうだとしたら岩ぶん投げたり地面かち割ったり女神ーズすごい。
これも史実が脚色された系かもしれない。主神とはアイヌの族長で、村を作る際の作業が伝説化のパターンだ。日本海側にしろ太平洋側にしろ、砂浜だけ、岩場だけではない。女性は砂浜で何かしら作業をしてて、男性は岩場近くで魚を追っていたが芳しくない。だがあるとき大漁に恵まれ、それが一日で浜辺を完成させたと伝わった……
史実だとそうして生まれた伝説も多かろうが、ファンタジー世界なら何でもありだ。本当に神様が無から世界を創ったとしても不思議はない。私には魅力的な文章を書く才能はないが、書ける皆様にはぜひそんな話を生み出してほしい。
あなたの作品においては、あなたこそが創造神なのだから。




