020 無知と誤解が生んだ名剣、ブレードカシナート
眠れない夜。駄文を書いて気晴らししたい時もある。
ファンタジーものが好きな方なら、一度くらい棒の先にミキサーの刃がついててグルグル回転する、珍妙な武器を見たことがあるのではなかろうか。
これの元祖は、このエッセイでも度々紹介しているウィザードリィに登場するブレードカシナートだ。だがこの武器、当時の本では普通の剣として扱われている。理由をご存じの方もいようが、そうでない方のために紹介してみたい。
そもそもウィザードリィは元々パロディ満載だ。なぜか日本では古典的正統派ファンタジーみたいに思われているが、ダンジョンの中を侍が闊歩し、裸の忍者が空手チョップでドラゴンの首を斬り落とすゲームだよ? で、このミキサーみたいな武器は、アメリカのキッチン家電ブランド、クイジナートのフードプロセッサーが元ネタとなっている。
でも、ネットもない1981年当時、ほとんどの日本人はそんなこと知らなかった。そこで彼らは想像力たくましく、「カシナートという名の刀匠が作った剣」と解釈した。そのため今でもカシナートを普通の剣としている人も多いと聞く。ベニー松山氏の小説「隣り合わせの灰と青春」もこの設定で書かれていた。
「間違いは正すべき。スカルダとガディの武器も書き直せ!」という声もあろう。だが、多くの人の情熱と想像力のもとに生まれた設定ならば、間違っていようとあえて受け入れるのも、作品の世界に広がりをもたらすのではないか? 少なくとも私は、プレイヤーを楽しませるため「カシナートとは職人の名前」という設定を考えた当時のライターを「アメリカの家電を知らなかったから間違いを書いて誤解を広めた無責任な人」と言いたくはない。
彼の頭の中には、きっとこんな光景が浮かんでいたのだろう……
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伝説の妖刀ムラマサブレードを見たカシナートは、その威力に驚愕するとともに、ふたつの致命的な欠陥をも瞬時に見抜いた。
ひとつは侍にしか扱えないこと。東方ではどうか知らないが、リルガミンの肉弾戦要員はほとんどが戦士だ。もうひとつは百万ゴールドという天文学的な値段。職業的にもコスト的にも、使えない武器では意味がない。
そこで彼は最適化を試み、一般的な戦士でも使えて、安価に抑えられて、それでいて本家ムラマサほどではないにせよ十分な攻撃力を持った剣を作った。
それがブレードカシナートだ。量産型ムラマサブレード、ガンダムに対するジムみたいな剣だったのだ。だからソードオブカシナートではなくブレードカシナートなのだ。
かくて戦士や君主にも使え、一万五千ゴールドと性能の割には安価な(カシナートはドワーフという説があり、彼らは実用性を重視する。おそらく飾り気を廃してコストを抑えた)この剣は、リルガミンの戦士たちにとって最良の武器として受け入れられた。
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……こんな感じだろうか。この設定は一定の支持を得ているらしく、「リルガミンサーガ」のアイテム図鑑では普通の剣の絵が用いられている。片刃ではなく両刃だが、そこはリルガミンの需要に合わせたのだろう。
一方、「ウィザードリィエクス」では回転ミキサーだ。バカゲーぶりでは本家に負けてないので、合ってるといえば合ってるだろう。プルトたちの必殺技は「聖闘士星矢」の黄金聖闘士のパロディだし、パンドゥーラの特殊攻撃に至ってはスタッフの正気を疑うレベルだし。
どちらを選ぶかは作品の雰囲気によるだろう。ちなみに私にとってカシナートは普通の剣だ、今でも。




