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016 魔法、それは永遠の悩み

 俗に「剣と魔法の世界」と呼ばれるファンタジー。このジャンルにおいて大きな魅力であり、しかし書く側にとっては悩みの種でもあるのが魔法だ。


 どんな名前にしよう?

 呪文の詠唱は細かく書くべきか?

 効果のほどは? 弱すぎてもアレだし万能すぎても白けるし。

 魔法を使うのに必要なアイテムなんかはどうする?


 なにぶんにも、数学のように明確な正解がない。同じ悩みを抱えている作者の方も多いことだろう。私の場合は基本的に、


 ①名前は「ファイヤーボール」など古典的な定番のもの、あるいは「落雷」など平易な日本語訳。

 ②詠唱はテンポと文字数削減を優先し、基本的に書かない。魔法を主題とした作品になると別かもしれないが。

 ③便利ではあるが万能の力ではない。攻撃魔法も一発で大陸を消滅させるほど圧倒的ではない。死者も原則として生き返らないし、欠損した手足も戻らない。そこまで行ったら何でもありになって辻褄合わせが大変すぎる。おおよそのイメージは「現代の最先端技術でできる範囲を大きく逸脱しない」感じ。

 ④魔法は基本的に本人の魔力だけで発動できる。漠然としたアイデアだが、戦闘中に即座に発動させられるようなものを「魔法」、コウモリの羽だのヤモリの尻尾だの触媒となるものや、長時間の儀式を要するものを「魔術」と表記して分ける、なども考えている。


 こんなところだろうか。独自の造語を用いることも考えたが、分かりやすさを考慮してやめた。いい名前を思いつく作者様の文才が羨ましい限りである。


 そんな羨ましいほどの才能を持つひとりが、ゲームブック(八十年代に流行った、アドベンチャーゲーム仕立てのライトノベル)作家の鈴木直人氏である。その作品のひとつ「パンタクル」をみてみよう。


 この作品、同氏のデビュー作にして今なお傑作の誉れ高い「ドルアーガの塔」三部作のスピンオフ的な作品で、主人公メスロンは魔法使いでありながらローブではなくロック歌手の衣装みたいな格好をしている型破りな設定だが、魔法の名前がまたシャレてて面白いのだ。


 火炎の魔法が「火界かかい」、身体強化が「金剛力こんごうりき」とかはオーソドックスなのだが、ランダムに風を吹かせるあまり当てにならない魔法が「風天虎ふうてんこ」(元ネタはフーテンの寅さん)だったり、スピードアップは「馬佐呂ばさろ」(水泳競技のバサロスタートにちなむ)、まばゆい光を発する魔法は「十字輝章じゅうじきしょう」(十時起床。パワーアップすると九時、八時とだんだん早起きになるらしい)といった具合に。


 なかんずく、ドルアーガの塔で登場した、隕石で攻撃する究極魔法「MUALA」が「霧荒星むあらぼしの魔法」として登場するのは、作品の繋がりを感じさせる上手い演出で、とても参考になった。


 なお本作の魔法の真のすごさはネーミングセンスではなく、どんな状況でも全ての魔法を使えるように工夫されたシステムにこそある。鈴木氏の著作は電子書籍もあるので、ぜひ読んでほしい。


 この作者はとかくゲームシステムが注目されがちだが、文章力も高い。読み専の方はもちろん、もしあなたがファンタジー小説を書く側の人間ならば、必ずや得るものがあるはずだ。

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