後
三題噺もどき―にひゃくななじゅういち。
雨音が、世界を包む。
ありきたりな表現で申し訳ないが―まるでバケツをひっくり返したような大雨だ。
バシャバシャと地面を跳ねる水の音。
バチバチと傘を叩く水の音。
パシャリと水の上を人が駆ける水の音。
―雨音と言っても、こんなにもあるんだなぁと、ふと思った。
「……」
世の中には、こんなにも知らないことがあふれている。
何で知らないのかって、単純に見ていないからだろうなぁ。
見て居れば、聞いていれば、分かりそうなことなのに。
目を反らして、耳を塞いでいては、知れることも、知れやしない。
「……」
何でもそうだ。
この雨音にしたって。他のあれこれにしたって。
男と女のしがらみにしたって。
「……」
全身が鉛のように思い。
そりゃそうか……。
傘も持たずに、びしょ濡れになっているんだから。
服を着たまま水の中にいるようなものだ。
腕も足も頭も思い。正直靴も脱ぎ捨てたいぐらいに気持ちが悪い。
「……」
雨の中とは言え、人目はあるし、裸足で道を歩くわけにもいかないので、できないが。
そんなことしたら、何されるかわかったもんじゃない。最悪通報される。
いやまぁ、この雨の中、傘をさしていない時点でアウトかもしれないが。
今日は朝から雨は降っていたから、大抵の人は傘とか合羽とか、雨具は持っているはずだ。
「……」
水に濡れないように、防ぐ術を持っているはずだ。
自分の身を護るための何かを手にしている。
守る術があるというのは、心強くていい。
それがないだけで、人は一気に弱くなる。
「……」
逆に言えば、守る術がなければ、弱点を晒しているのと同じようなもんだろうか。
弱いところを見せたままに、攻撃されるんだから、そういう事かもなぁ。
だから、こうやってみじめになっているんだし。
「……」
あぁ、なんか。
何か不愉快だなぁと思ったら。
ここはそういえば、それなりに人通りがある場所だった。
もう少し人の少ないところを歩いているつもりだったが……。
癖でこの道を歩いて来てしまったようだ。
「……」
全く……人間の習慣づけって…。楽しい事とか、嬉しい事とか、それに類する記憶があると、案外艦隊にできてしまうものだよな。
「……」
視線がいたいなぁ。
まぁ、さほど気にもならないし、それどころではないので、捨て置いていいのだが。
こっちは家に帰っているだけなので、何もおかしくはないし、不自然でもない。
ただなぁ……。
「……」
見てるだけはまだしも……コソコソと話しているやつは何なんだろうか。
こっちを見ていないで、他の大切なことに目を向けて居ればいいモノを…それについての話でもしてばいいものの。
こんなみじめな奴の話をしていたって、いい事なんて1つもないってのに……。
……おいおい、聞こえているんだが。雨のせいで自分の声が聞きずらいから、大きくなっているの分かっているのか?
2人で話すなら、耳をすませるとかして、もっと秘密裏にしてくれ。
「……」
そうそう、そうやって。
くっついて、ひっついて。
お互いの体温でも感じながら、していてくれ。
「……」
あー、というか……ホントに。
こんな奴を見て話すんじゃないよ。
他の大切なものを見落とすことになっても知らないからな…。
「……」
よそ見なんて、そんなことした瞬間に。
不幸に襲われると思ってた方がいい。
よく言うし聞くだろう。
よそ見をしていて、事故にあったとか。
よそ見をしていて、道をふみはずしたとか。
よそ見をしていて、他のやつに取られたとか。
「……」
仕事に必死になっていたら。
あの人が離れていたのも、よそ見していたからだし。
「……」
突然、水が降りかかってきた。
いや、雨に濡れているから、今更なのだけど。
道路わきにできていた、水たまりの上を。車が走ったようだ。
おかげでさらに濡れた。
その上、汚れた。
まぁ、雨で流れるか……。
あぁ、ほら、これも。
「……」
意味のない、他人に気を取られて、よそ見なんてしてたから。
水たまりの近くになんて立ってしまって。
「……」
赤信号で止まっていただけなのに。
とんだ仕打ちだ。
「……」
―あの人の為に、仕事をして、お金をためていたのに。
とんだ仕打ちだ。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
信号も変わったことだし。
さっさと帰ろう。
なんだかもう、疲れた。
お題:雨音・水たまり・傘