聖女の証
常連騎士が私を抱き抱えながら、酷い目に合ってたんだなってちょっと目を潤ませて、同情するような視線を向けられたわ。
「皇太子がイリスを助け出すって決めた時に聖女との婚約話が持ち上がったんだよ。
で、それを利用して侯爵邸へと来たわけ」
「あの、私が悪女だとは思わなかったのですか?」
「あれだけ働く姿を先に見せられて、悪女って誰だよって思うのが普通じゃないかな?
それに食中毒を出さないために、女将さんにも卵料理はダメだって言ってたらしいじゃねーか。
そんな奴が病気をばら撒くとかないわな。
皇太子も聖女の力とやらを信用はしてねーのよ」
あら、意外としっかりした考えで動かれてましたのね。
「私はこれからどうなるのでしょうか?」
「んー、そこは皇太子に聞いて」
「あの、殿下ではなく皇太子って呼ぶのは不敬では?」
「あー、そっかそっか、うん、そうだね。
俺は乳兄弟なんだ。
ロアールと一緒に育って、そのまま護衛兼騎士、そして公爵家の嫡子だ」
ええぇ? それなら、まぁ納得ですわ。
「このような姿で失礼いたします。
イエニス・ドルアー、ドルアー侯爵家が嫡子でございます」
抱きかかえられたままでご挨拶するのもどうかと思いましたが、貴族としてご挨拶をしないのは礼儀を欠いた行いだと教えられてきましたから。
「俺は、ヒバリが丘亭のイリスの方が好きだな。
俺はガイウス公爵家が嫡子、オリジンだ。
所で、婚約者を奪い取って飽きたから捨てたって話は、うん、嘘だな、こりゃ。
大体その婚約者ってー奴の名前さえ誰も知らないっておかしいよな」
婚約者を奪っただの、捨てただの、それは聖女である義妹ではないかしら。
庭園の森を抜けると、屋敷の門前には皇太子専用の馬車が横付けされていましたわ。
「馬車で待ってて、すぐに皇太子が来るから」
そう言い終わらないうちに、騎士の後ろから声がしました。
「邪魔だぞ、すぐに城へ帰るぞ」
「はいはい、イリス、いやイエニス様、これで一安心ですよ」
一安心と言われても、私には仕事もありますし、皇太子に連れられて行くとこなんて、お城とかそんな場所しかないじゃない。
侯爵家なんてもうどうでも良くて、うまく楽しく自由に生きていければそれで良いのよ。
前世の記憶をちょっと使って、便利に小金を稼げて問題なく生きて行きたいのよ。
「イリス、いやイエニス嬢
君はあの家でこれ程の虐待を受けていたのだな」
「はい、皇太子殿下。
両親は義父達の計略により、馬車の事故と見せかけて殺されたようでございます」
「そうだったか。
これまでの悪評も、噂ばかりで実際目にした者や、被害者がいなかった。
名乗りを挙げた者を調べると、ここのメイドが金品を握らせて訴え出るように指示したそうだ」
「そこまで、でしたか。
この度の食中毒ですが、簡単な治療法がありまして、聖女じゃなくても時間が経てば自然治癒する可能性も高いものでした。
それを義父は聖女の力だと公表したのです。
私と言う悪女が病気をばら撒いた責任と称して」
「そのようだ。
先程、痙攣していた動物を治癒する様に命令しても出来なかったからな。
イエニスの義兄は私と同級ではあるが、学園でも関わる事がなかったはずなのに、親友と言う事になってるしな、なかなか愉快だ」
かなりお怒りですわね。




