救出劇
私を抱き止めた皇太子は、まだ義妹を聖女だと思ってるようだった。
「ナルミナ嬢、彼女が嫡子ならば貴女の義理とは言え姉にあたる方なのではないですか?」
吐瀉物で汚れた私を、嫌がりもせず抱え上げてくれた。
この皇太子っていくつよ?
あのサイコパス的な義兄様と同じくらいかしら?
青年に手をかけたぐらいの皇太子と、十二歳の私より下の聖女と言う義妹との婚約ってどうなのかしら?
義妹の方は乗り気で婚約してるみたいだけど、皇太子は政治的なものとしか捉えてない感じがアリアリと伝わって来たわ。
「ロアール様、義姉は少し心が弱くて病気なのですわ。
ですから治癒を食事の後にして」
「執事長殿に付いてる物が、彼女の食事ですか?」
一応護衛騎士が取り押さえた執事長に、皆んなが視線を移した。
「はい、多分そうだと思います」
「ではアレは、本来なら嫡子であるイエニスがなるはずだった、という事なのだな?」
庭内の森とは言え、人に慣れてる動物がいるかどうか知らないけど、好奇心旺盛な犬みたいな動物が痙攣して、私が這いずるように出てきた道に転がっていた。
あんな残飯を舐めたか、匂いを嗅いだからか、相当強力で即効性のある薬を盛られていたのね。
「あれは、私に食べろと執事長様が頭を押さえつけて、あ、あ、あぁぁあ!!
助けて、助けて下さい!」
迫真の演技、アカデミー賞総なめできるわ絶対!
「落ち着いて、大丈夫だから」
存外優しいのかしら。
「ロアール様! 私は姉がこのような仕打ちを受けてるとは知りませんでしたわ!」
「ふぅ、最初に下女だと言ったのはナルミナ嬢だぞ?」
「あ、いえ、気づかずに」
「あり得んな」
皇太子は護衛騎士に目をやると、執事長を連れて本邸の方へ行く者と、皇太子の護衛で残る者と分け、私をそのうちの一人に託した。
「世話を頼む」
「はっ! 畏まりました。
では、イリス様行きましょう」
私を抱えた護衛騎士が、イリスの名前を呼んだのでその顔をよく見たら、常連の騎士の一人だったわ。
「え、あ、の、」
「大丈夫ですよ、貴女を連れ出すために来たのですから、安心して下さい。
ヒバリが丘亭は我らの憩いの場所ですが、たまに皇太子もお忍びで来られていたんですよ」
全く気づかなかったわ。
「最初は会計時のやり方が変わった事に驚き、新しいメニューをサンプルで出したり、目玉商品なんて表現してみたり。
メニューに絵があると読めない者でも頼み易く、庶民の懐事情にも配慮されているのが面白くて、皇太子に話した所実際に見たいってなってな。
そこでイリスを調べたわけ。
稀代の悪女って評判のイエニス嬢だと分かった時には、騎士団も皇太子も驚いたぜ~」
私を抱えて歩く騎士は、面白そうに豪快に笑って、最初から私をこの家から救出する事が目的だったと告げた。




