皇太子殿下
さて執事長を抑えてたのは良いけど、無計画だったわ。
突然の訪問だったし、聞きたい事を先に聞いてしまいましょう。
指導はその後ね。
「ねぇ、執事長、私、侯爵家を出ようと思ってるのよ。
貴方って私の両親に仕えていたのに、どうして叔父様たちに同調してるのかしら?
それとも両親の死にも関わってるのかしら?
教えて下さる?」
「ぐぅ、私は、今の旦那様、つまり、弟君の、従者だった」
「あら、そうだったのね。
でしたら私の父や母は邪魔者でしたわね」
「そうだとも!馬車を襲わせたのも旦那様の為に私がしたんだ!」
「そこは、旦那様の指示でって言って欲しかったわ。
幼い私なら、どうにも出来るから、生かさず殺さず侯爵家の財産を着服して行ってたのね」
「そうだ、嫡子がいたばっかりに出遅れてしまった」
「国に爵位も全て没収されちゃうものね」
執事長が戻ってこないからメイド長も来たのかしら、ちょっと外が騒がしいわ。
聞いたことのない女の声とか、金属がカチャカチャとぶつかり合う音に、皇太子とその護衛だと察した。
「あっ!」
「ふははっははは!!!
これで形勢逆転だな」
外の気配に気を取られて、ちょっと抑える力を緩めてしまったわ、態と。
「いやぁぁぁ!!!」
叫びながら、スカートの裾を引き裂き、袖を引きちぎり、ゴロンゴロンと床をのたうち回り汚れをたっぷりつけて、最後に助けてと泣きながら外へ這い出て差し上げましたの。
「待て! 貴様!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、いつものように大人しく殴られますから、殺さないでください!!
お願いします! 靴を舐めろと言うなら旦那様から順番に舐めますから!」
今まで日常的に繰り返された虐待を、微妙に避けながら叫ばせて頂きました。
庭という名の森を散策でもって感じで聖女様と皇太子を行かせたのだろうけど、生憎狩猟小屋から出られなくなる予定の残飯を食していないので、元気に飛び出せちゃいましたわ。
そうして勢いよくいかにも捕まえられそうな状態から逃げてきました、という証拠を連れて二人と護衛の前で大袈裟に転んで見せましたわ。
「何奴!!」
「お助け下さい!」
護衛の足に思いっきりぶら下がって、縋って見せると皇太子が何があったか聞いてきた。
やっとかよ、と心の中で悪態を吐いてしくしくと泣いてみた。
「これはどういう事なのか教えて貰えないだろうか?
そこにいるのは執事長だと記憶してるが」
「ロ、ロ、ロアール殿下、これは、何かの間違いでございます!
下女を罰していたのです」
「下女? 下女とは言え、これは余りに無体ではないか?」
「あまりにもダメな子で」
「うぇっ、おぇっ!」
吐いてみせると、言い訳をしていた女、つまり聖女と言われている妹、義妹ね、コレが盛大にキレてくれましたわ。
「何するのよ!!
誰か、処罰して!」
慈悲深い聖女様が汚されてもいないのに、処罰を求められたわ。
おかしいわねー?
「ぃや、あ、助けて、助けて下さい、なんでもします!
悪女のフリだって出来ます!」
「「「え?」」」
聖女ってどっかで優雅に他人の財産で暮らしてたのよね? その持ち主の顔くらい 覚えておきなさいよ。
今は小汚くしてるけど、髪色は白に近い金に、赤い瞳、希代の悪女はその美しさで惑わす毒婦だと噂されてるくらい、綺麗なのよ。
まだ十二歳なのにね。
「侯爵家が唯一の嫡子、イエニスにございます」
「嫡子を、しかもまだ幼い娘ではないか!!
どこが悪女だ!」
そうでーす!
十二歳の悪女だの毒婦だの、ワガママで贅沢三昧だの、何だと思ってるのよ。
「大丈夫か?」
皇太子も騎士も噂とのあまりの違いに、驚いただろうに、次の瞬間にはもう平静を取り戻すなんて、やるわね。
「ありがとうございます」
立ち上がる時に、私は女優と言い聞かせてうまい具合によろけて、皇太子に抱き止めさせた。




