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通常モードは暴走列車~悪役って誰が決めるんでしょう?  作者: 楽々ふぉん
第一章 第二部 可及的速やかに
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踊り疲れて

第一章完結です。


 義母と聖女である義妹は簡単に尻尾を出してくれましたけど、義父とサイコパスな義兄は意外と賢かったようですわ。


「イエニス、お母様はお前を思って婚約者と言う重責からなんとか逃れさせてやりたいと思ったのだよ。

 自分が悪者になっても良いと、今まで悪女だと言われ続けたお前が」

「お待ちになって、叔父様。

 先ほど殿下より、悪女の噂を流すように言われた商人たちが、そちらに」

「し、知らん!!

 侯爵家とは何ら関りが」

「えぇ、ドルアー侯爵家とは何ら関りがありませんわ。

 でも、従兄弟のジャックはそんな顔していませんわね」


 ふふっと笑ってジャックを見ると、ブルブルと首を振っていた。


「イエニス、叔父様だなんて」


「いえ、叔父様でも勿体ないですわ。

 だってお父様とは血の繋がりもない、先々代侯爵の後妻の連れ子ですものね」


 執事がこの叔父に忠誠を誓っていたと聞いた時に、違和感を覚えていた事を殿下にお伝えすると、執事の経歴から色々と辿ることが出来ましたわ。


「だが! れっきとしたドルガー家の」

「残念だが、貴方はドルガー家の籍に入っていなかったようだ」


 皇太子殿下が数枚の書類を侍従から受け取り、一枚一枚読み上げて下さいました。

 お馬鹿な偽家族にも分かるように。


「奥方、貴方の御主人は貴族と詐称した上、本来イエニス・ドルガー侯爵令嬢が受けるはずの財産を着服、そして奥方もその子息も含め詐欺を働いたことになる。

 国民をだまし、聖女と名乗りできもしない治癒を施した罪は重い」


「そ、そんな嘘ですわ、間違ってますわ!

 イエニスが病気を撒いて、娘のナルミナが治癒させなければどうなっていた事か!」


 引き裂かれたドレスをかき集める様にして床に伏していた叔母っぽい方が、聖女の偉業とやらを騙り始めましたが先ほどのオモチャのナイフの事もありますし、皆が疑わしいとざわつき始めましたわ。


「その病気はどんな病気だと言うのかしら?

 私がどんな病気を撒いた、とおっしゃるの?」


 スカートで隠れて見えませんが、しっかり仁王立ちで偽家族たちを見下すように微笑んで差し上げましたの。


「あ、アンタ! アンタが全ての元凶じゃない!!」


「ですから、どんな事が元凶だとおっしゃるのかしら?」


 扇を口元に当て、一応神妙な顔で問うてみますと。


「悪女だからよ!」


 聖女らしからぬ荒げた乱暴な口調で、私を悪女だと言い切りましたわ。


「下痢、嘔吐が集団で、でしたわね?

 確か、その方々はお店から料理を持ち帰りされた方々で、しかもすぐに食さず何日かに分けて召し上がったとか」


「だから何よ!」


 ここまで知識が無いって偏差値は二十もないのかしら。


「単なる食中毒ですわ。

 偶々、貴方が行った日くらいが回復方向へ向かう所だったのですわ。

 悪い物が体内から出てしまえばある程度は回復します。

 重症化した方々が今回いなかった、というだけですわ。

 患者が平民で多少腐ったものを口にしても、耐性があった事が不幸中の幸いですわね」


 正直平民は新鮮な食材とかを口にする機会は少ないので、それなりに痛んだ食材に対する耐性があるからこの程度で済んだのだけど、もし、貴族の中で蔓延していたら医学的な知識も発達もしていないこの世界では致命傷でしたでしょう。


「なんで、お前はピンピンしてるんだ!

 あれだけ毒だって盛ったのに!

 人間じゃないのだろう!?」


 ジャーック、アンタは本当にお馬鹿ね。

 

「先ほど申し上げましたけど、毎日、残飯、腐った食材、嫌がらせに同席させられる食事には殺さない程度の毒、そんなものを食していれば毒耐性もつきますわ」


 多少、その場にいた貴族たちはざわつきましたけど、概ね納得されていたみたいですわ。


「そうだ、そんなところも皇太子妃に相応しいと思わないか?」


 確かに、皇族ともなれば毒見役が必要ですものね。


「ロアーヌ様! 騙されています!

 姉は、いえ、この悪女は国民に毒を持ったのでございます!」


 最後のゴ〇〇リの足掻きの様なナルミナの叫びが本当に面白くて、嗤ってしまいましたわ。


「ナルミナ、お前はこの国、民の為に尽力しているイエニスが悪女だと言うのだな?

 では、私のイエニス嬢が女神である事をここに宣言する」


 え、は? ちょっと!!


「国民がこぞって文字や計算をする様になったのは、このイエニスが絵を使って分かりやすく浸透させたからだ。

 まさに女神の恩恵と国民は謳っている。

 誰もが商売を始める事が出来る、生きる希望を与えたのだ」


 この演説必要だったかしら?


「確かに、侍女や侍従も仕事の連携に絵を使っていたのを見た事があります!

 あれは、イエニス嬢の功績でしたか」


 どこかの家門の貴族が声を上げると、まるで声を出さなかったら処罰されるとでも思っているのか、次々に似たような発言が聞こえてきましたわ。


「ね? イエニス」

 

 私を見て、嬉しそうな笑顔を向けられても困りますわね。


「そんなの、信じられないわ!」


 偽聖女ナルミナが声を上げるけど、既に盛り上がってしまった貴族たちは彼らを悪と決めた様でしたわ。

 証拠として突きつけられたオモチャのナイフに、悪評を流すように金品を積まれた商人たちの証言、そして侯爵と偽っていた事に加えて、誰も聖女の治癒を見た事が無かった事も拍車をかける事になった上、途中で私への虐待が盛り込まれていた事で同情されてしまいましたわ。


「貴族でもない者がこの場で対等に発言するとは」


「そうだ、しかもイエニス嬢に残飯や腐った物、更には毒まで! 

 悪評を鵜呑みにした我々にも罪はあるが、これは酷い」


 貴族って、自分てものが無いのかしらね。

 さっきまで、私を悪女だと決めつけていたのに、この掌返しは少し不愉快ですわ。


「殿下、せっかくの成人の舞踏会が台無しになってしまいましたわ。

 ここは雰囲気を変える為にも、他の令嬢や貴族の方々と親交を持たれては如何ですの?」


「そうだな、では、そこの者たちは地下牢へ連れて行き、処罰を決める。

 他の者たちは時間の許す限り楽しんでくれ!!」


 殿下は挨拶をするために他の貴族の元へ、私はなるべく誰にも気づかれないようにその場を離れた。


「さぁて、二度目の人生のスタートは悲惨だったけど、今は悪くない、うん、悪くないわ」


 思いっきり空に向かって手を突き出して、この世界にもある星空を掴む様に掌を握りしめてから、イエニス・ドルガーとしての私より、ヒバリが丘亭のイリスの生き方の方を選ぶことを決めた。



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