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元悪役令嬢と年下王子 2


 誰かがいてくれる生活は思いのほか快適だった。

 まさか、セバスチャンがついてきてくれるなんて思っていなかったけれど、自分が思っていたよりも一人になるのは恐ろしかったのだ、と今さらながら気づく。


「あれ……。あの部屋、まだ明かりがついているわ?」


 なかなか寝付けなくて、諦めてベッドから出てきた真夜中。

 もう街中は寝静まっているのに、魔術師団本部には、まだ明かりがついている部屋があった。


「――――!?」


 こんな真夜中まで仕事だなんて大変だな、と思っていると、なぜか開け放たれた窓。

 そこから少しだけ乗り出した姿を見て、私は息をのんだ。


 淡い水色の髪は、真夜中にそこだけ光り輝いて、まるで水面に映し出された月みたいだ。

 素直に綺麗だと思った。


「レザール様……」


 大人びたその姿は、けれどまだ少年のように危うくもあり。

 その姿をよく見ようと、双眼鏡で覗いてしまったのは出来心としか言い様がない。


 そして今夜も、もちろん双眼鏡の中の彼と目が合う。


 魔術師団本部の敷地は広大だ。

 だから、いくらこのお屋敷が魔術師団本部の建物から近いといっても、向こうからは私のことは豆粒くらいにしか見えないはずだ……。


 レザール様は、こちらに透明な湖みたいな瞳を向けたまま、なぜか微笑んだ。

 私は双眼鏡を取り落とし、慌ててカーテンを閉める。


「な……。なにこれ」


 弾む心臓に戸惑いながら、胸をギュッと両手で押さえつける。

 この感情を私は、すでに知っている。


「月光の下で、淡い水色の髪が輝いて、あまりに幻想的……」


 そうこれは、間違いなくあの時と同じ感情だ。


「私、今日も心のアルバムに、レザールきゅんのスチルを加えてしまったのね……」


 レザールきゅん推しだった違う世界の私が、両手の平で顔を覆って身もだえている。

 乙女ゲームをすすめて、麗しすぎるレザールきゅんのスチルを手に入れたときの激情。

 まさか実物を見てすら、こんな風に胸が苦しくなるなんて知らなかった。


 満足のあまり、そこまでで眠気が襲ってきてしまった私は、ベッドに潜り込んだ。

 万能執事は、シーツも全て洗濯の手配をして整えてくれたらしい。


 シャボンの香りに包まれたその夜、私は満足感いっぱいで眠りについたのだった。


 ***


「――――お姉様」


 そう、眠る直前にレザール様の笑顔を見たからに違いない。

 目の前には、私よりも頭一つ分背が低く、まだ声にも幼さが残った、可愛らしい一人の少年がいた。

 淡い水色の髪の毛と瞳。


 キラキラ輝いて、まっすぐにこちらを見つめる瞳は、影が出来るほど長い髪の毛と同じ色の睫で縁取られていた。


「…………レザールきゅん」

「…………お姉様?」


 無邪気に私のそばによって、不思議そうにこちらを見たその姿は、間違いなく乙女ゲームの中のレザール・ウィールディアそのものだった。


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