実は白い結婚でした 3
「…………お慕いしていた、と言ったら、信じていただけるのでしょうか?」
どこか愁いを帯びたその表情は、私が知っているレザール様のものではないみたいだ。
「え? 慕う……? え?」
「あの時の俺は、力を持たず、あなたをえん罪から救うことが出来なかった。あれほど、己の無力を悔いたことはありません」
「…………え?」
王立魔術師団長に上り詰めているレザール様は、今はもう王国軍の中心人物だと見なされているらしい。
そして、ものすごくもてるのに、女性に興味がないのかというくらい浮いた噂一つなく、恋人も婚約者もいないという……。
魔術師団長として戦えば、誰よりも強く、いつも戦いに明け暮れているらしい。
なんとか私が集めた噂話は、それだけ。
なぜか社交界にもほとんど姿を現わさないという末の王子。レザール様の情報はほとんどなかった。
「会いたかった」
レザール様は、切なさを滲ませて笑ったように見えた。
「……レザール様」
変わってしまったレザール様に、戸惑いを隠せない私。
戦いに明け暮れている、という時点で、かつての可愛らしく庇護欲をそそるレザール様とは違うって、気がつくべきだったのだろうか。
「リーフ辺境伯が、もしもあなたに無体を働くような人間なら、追い落としてしまおうと思っていたのですが……。仁義に厚く、あなたに指一つ触れなかったそうですね?」
「え!? 何でそのことを……」
「……魔術師団長に上り詰めたのは、全てあなたを取り戻すためですから」
無邪気だった微笑みは、今は少しだけ暗く淀んでいる気がする。
ジリジリと下がろうとするのに、同じだけ距離を詰めてくるせいで、私は壁際に追い詰められていた。
(あ……。あれ? 周囲に通行人がいないわね?)
気がつけば、普段人があふれているメインストリートのはずなのに、不自然なほど人がいない。
まるで、王都に私たち二人だけが取り残されたみたいだ……。
「さて、毎日誰を捜していたのですか? あなたが興味を持っている男性を、俺は……」
「ひっ! あの! レザール様を捜していました!!」
「え……? どうして」
驚きに見開かれた、薄い色彩の瞳。
どうして、そんなに驚いているのか、と状況も忘れて私は首を傾げる。
「だって……。ずっと好きでしたもの」
「は…………? えっ!?」
壁に私を追い詰めて、壁ドン未遂だったレザール様の頬が真っ赤に染まり、それを腕で隠している。
その姿は、私の知っているレザール様そのものだった。
「そう、ずっと好きでした(推しとして)」
「え……? 本当に」
次の瞬間、私は強く抱きしめられていた。
抱きしめた手を離した後も、赤い顔と潤んだ瞳で私を見つめるレザール様は、可愛らしい。
そのことで私は大満足だった。
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