悪役令嬢の運命が変わった日 4
それから、結婚式は速やかに行われた。
この短期間にどうやって用意したのだろうというくらい豪華に、華やかに。
リーフ前辺境伯とは、結婚式をしなかったから私にとって初めての式だ。
(あの日、大切に取っておきなさい、と言った旦那様は、こうなることを予測していたのかしら……?)
ベール越しに見る魔術師団の白い正装を着たレザール様は、あまりに麗しくて、隣の花嫁がかすんでしまいそうだ。
白いドレスを彩る、淡い水色の薔薇と宝石。
そのきらめきに負けないくらい甘く、レザール様が微笑んでいる。
「――――でも結局、シナリオは完全には覆せないってことなのかしら」
これから私たちは、新たにウィールリーフ領として与えられた北の地に向かう予定だ。
北の地だなんて、明らかに悪役令嬢が、末の王子ハッピーエンドで送られてしまう場所に違いない。
五十歳年上の辺境伯との結婚。
そして、北の地への追放。
だってどちらも、乙女ゲームのシナリオに描かれていた未来にとてもよく似ている。
「……レザールきゅん」
「あなたが話してくれた、その場所に、害を与える魔獣はいませんよ?」
「そうですわね……」
不安になってしまった私に、レザール様は余裕の表情で答えてくれる。
可愛かった王子様は、もうここにはいないのだろうか。
いや、やっぱり私の背を越えてしまっても、その笑顔はとても可愛らしい。
二人が出会ったあの日から、乙女ゲームのシナリオは、ほんの少しの変化から大きく形を変えている。
だからきっと、北の地にも、幸せが待っているに違いない。
「ところで、結婚式の準備、いつの間にすすめていたのですか?」
結婚の申し込みを正式に受けてから、まだ一週間。
再会してからだって、ほとんど月日が経っていないと思うのに……。
目の前の王子様、改めウィールリーフ公爵は、にっこりと微笑む。
そこには、かつての可愛らしかった乙女ゲームの末の王子の面影はない。
目の前にいるのは、少し意地悪な年下公爵様だ。
「三年間、準備していましたからね」
けれど、私は知っている。
レザール様が、私のために背伸びしてくれていることも、甘い物がやっぱり今でも大好物だってことも。
ブラックコーヒーよりも、やっぱりミルクティーが好きなことも。
「私、コーヒーよりも紅茶が好きなんです。とくに甘いミルクティーが」
「……あなたがそういうなら、二人きりの時には、いつでも甘いお菓子とミルクティーを用意しましょう」
「ふふ。可愛いですね」
「――――可愛いのは」
ベールが取り払われる。
目の前には、まぶしいほど輝いている水色の色彩。
「……あなたのほうだ」
(世界一可愛いのは、レザールきゅん!!)
そう告げようとした推しを愛する私の言葉は、誓いの口づけにかき消されてしまったのだった。
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