うわさの前辺境伯夫人 2
レザール様と私の写真が二日連続新聞の一面に掲載されてからというもの、お茶会やパーティーのお誘いがひっきりなしに届くようになった。
その中の一つを私はそっとつまみ上げた。
私は、それほど社交が得意ではない。
もちろん、フィアーナ・レインワーズとして生きてきたのだから、作法は問題ないのだろう。
「…………国王陛下直筆」
その中の一通は、決してお断りできない招待状だ。
国王陛下の直筆サインが入った招待状、それはプライベートなお誘いであると同時に、決して断ることの出来ないものだ。
王太子殿下が、三年前の騒ぎで廃嫡になってしまった責任の一端は私にもある。
もしも、私がちゃんと支えていけたなら……。
「うーん。長男の婚約者だった女性が、末の息子と恋人という噂が立っているだなんて、外聞が悪いだけではなく、親御さんとしても複雑でしょうね……」
レザール様は、本当にしっかりしていて、完璧なお方だ。
それなのに、どうして私なんかを好きだと言ってくれるのかは、いまだに謎しかない。
それでも……。
「セバスチャン、招待状の日時は三日後だわ。どうしても、最高のドレスが必要なの」
本当に、いつも忙しいレインリーフの主任デザイナーを呼び出すのは申し訳ないけれど、こればかりはどうしようもない。
「セバスチャン、レザール様には、このことは伝わっているのかしら?」
「どうでしょうか……。しかし、宛名はフィアーナ様お一人になっています」
「そうね。全力で隠すわよ!!」
「え? お知らせした方がいいのでは?」
王妃殿下は、レザール様の実のお母様ではない。
もしかすると、婚約破棄や私を辺境に追放したことにも関係していたのかもしれない。
「――――ダメよ。巻き込みたくないもの」
「……」
セバスチャンはそれ以上何も言うことなく、私のドレスを用意するために、レインリーフ本店へと出かけていった。
「――――だって」
悪役令嬢としての運命は、記憶を思い出した直後に終わったと思っていた。
今の私は、もう令嬢ではないから……。それでも、もし悪役令嬢の物語に続きがあるのだとしたら……。
レザール様のお母様は、レザール様を生んだときに亡くなったという。
そのあと、どんな思いをしながらレザール様が、王宮という華やかだけれど、生き延びるのは容易ではない場所で暮らしてきたかはわからない。
三日後、私は何重にも重ねられた薄いフリルで、いつもよりも華やかなドレスに身を包んで屋敷の外に出る。
なぜか、とてもお忙しくなってしまったレザール様には、あれからお会いできていない。
けれど、王宮にたどり着いて、差し伸べられた手を取り馬車から降りた私は目を見開く。
「れ、レザール様?」
御者をしてくれていた騎士だと思ったエスコートの手は、レザール様のものだった。
完璧な正装とよそ向きの笑顔。
それでも、明らかに怒りを交えて微笑んでいることが、私には分かってしまった。
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