パーティーのお誘い 3
***
「さあ、お手をどうぞ」
「ありがとうございます」
馬車から下りる私に、王子様が手を差し伸べる。
比喩ではなく、本当の王子様というところがすごいと思う。
「…………」
「どうしました、フィアーナ」
そう言って、流れるように私をエスコートしながら問うてくる、レザール様がまぶしすぎる。
メインヒーローの王太子殿下と、あまり似ていない甘いほどの美貌は、少し微笑んだだけで倒れる貴婦人が続出しそうだ。
「…………気を取り直して。あの、レザール様? 前辺境伯夫人である私が、レザール様とパーティーに参加するなんて、やはり問題があるのではないかと」
「……ご迷惑でしたか」
意気消沈したように、肩を下げてしまうレザール様。
そういえば、王太子の婚約者だったときにも、レザール様のこの表情と態度に、私はすぐに折れてしまった。
フィアーナと前世の私。
どちらの私も、レザール様には弱いに違いない。
「違います。そもそも、私の評判なんて地に落ちています。でも、レザール様はようやく手に入れた魔術師団長の地位、そして名声を」
「……そんなもの、全て捨てたって構わないんですよ」
「え……?」
レザール様は、王宮で母を亡くして不遇な王子と言われていた。
けれど、今は確固たる地位、そして名声、全てをほしいままにしている。
「――――すべて、たった一人のためでしたので」
「え……!?」
じっと見つめたレザール様の表情は、王子様の仮面をかぶってしまってよく分からない。
それほど、大事な人がいるのだろうか。
(つまり、その人のために全てを捨ててもいいほど愛しているのね。でも、その人とはパーティーに来ることは出来ない。なるほど)
レザール様は、噂で名誉が傷つこうと、その人だけが好きなのだろう。
(…………前辺境伯夫人である私なら、未婚の令嬢を連れていくよりもいいに決まっている。ましてや、三年前から見知った仲で、悪役令嬢として断罪後の私自身が失う名誉なんて、もうない)
うんうんと頷いている私は、レザール様が微妙な表情で私のことを見つめていることに気がつかなかった。
エスコートされた手を熱いのに、胸の奥にはなぜか冷たい石ころみたいな塊があって苦しい。
その理由なんて、少し真剣に考えれば、すぐに分かってしまうのだろう。
でも、今はその答えを知りたくなんてなかった。
「レザール様のお力になれるなら、よろこんで」
そう告げると、一瞬だけ虚を突かれたような顔をしたレザール様は、なぜかさみしそうに微笑んだ。
「…………きっと、あなたにとって俺は、いつまでも年下の王子、なのでしょうね」
「え……? それはどういう……」
次の瞬間、引き寄せられて、バランスを崩しかけた私は、思わずレザール様の腕に腕を絡めた。
そのまま、レザール様の思いのほか力強いエスコートを受けて、私は貴族たちの戦場に足を踏み入れる。
「行きましょうか?」
「は、はい」
私に向けられたレザール様の微笑みは、全ての貴族夫人も令嬢も虜にしてしまうほど美しい。
でも、少し幼いいつもの笑顔のほうが好きかもしれない。私は、ふと思ったのだった。
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