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パーティーのお誘い 1


 ようやく二人の魔道具談義が終了したときには、すでに1時間が経過していた。


「お待たせしました、フィアーナ」

「いいえ、楽しかったですわ」


 本当に楽しい時間だった。

 共通の趣味について語り合う、レザール様とロレンス様。眼福だった。


「じゃ、俺は帰るから。またな?」

「ロレンス様……。しばらく王都にいるのですか?」

「ああ、リーフ辺境伯を父上が継いだから、近いうちに祝いのパーティーが開催される。すでに各方面に招待状は送られているが……。もちろん、リーフ前辺境伯夫人として、フィアーナも参加して欲しい」

「……私は、形だけの」

「分かっている。だが、離婚しないままだったから、フィアーナは今でもリーフ家の人間だ」


 返答に迷ったその時、そっと手を引かれた。

 驚いて顔を上げると、なぜか少しだけ闇を感じる笑みがこちらに向けられていた。

 怒っているのとも違うそれは、私の知らない表情だ。


「レザール様?」

「……そのパーティー。俺も招待されているんです。パートナーがいなくて困っているのですが、一緒に行っていただけませんか?」

「――――え? 王子様な上に魔術師団長でもあるレザール様が、パートナーに困るわけ……」


 その時、一瞬だけ誰かをエスコートして微笑みかけるレザール様が浮かんでしまった。

 なぜか、それはとても嫌だと思ってしまう。


(同担拒否では、なかったはずなのに……。どうしてしまったのかしら、私)


 物思いに沈んでいると、肩をポンッと叩かれて飛び上がる。

 手を掴まれたまま、そちらに顔を向けると、ニカッと今日も人好きのする笑みを見せたロレンス様がいた。


「とりあえず、帰るな? パーティーには、レザール殿下が連れてきてくれるというなら安心だ」

「……えっ、ロレンス様!?」


 この状況で二人きりにしないで欲しい、と困惑する私を置いて、ロレンス様は部屋から出て行ってしまった。


 なぜか、真剣な顔で私の手を離してくれないレザール様。

 その顔が、ほんの少し赤い気がするのは、気のせいなのだろうか。


「……俺がパートナーでは、お嫌ですか?」

「で、でも。私は、今度のパーティーは、リーフ前辺境伯夫人として参加を」


 優しいけれど振りほどくことが出来ない力で掴まれていた手が、そっと持ち上げられる。

 呆然としているうちに、落ちてきた口づけ。


「――――リーフ前辺境伯は、立派な方だった。あなたと彼の関係は、よく分かっているつもりです……。それでも、もうその名は聞きたくない」

「それはいったい……」

「……俺はもう、唯一大切だと思ったものを誰かに譲る気はないんです。それでも、あなたが嫌だというのなら……」


 大好きな推しのことを嫌だと思うはずなんてない。

 事実、なぜか潤んだような一目で私のことを見つめている姿に、動悸がして仕方がない。


「でも……。リーフ辺境伯家に迷惑をかけるわけにはいかないですわ」

「……それについては、俺に考えがあります。だから、あなたの気持ちだけ聞かせてください」


 記憶をたぐり寄せれば、王太子の婚約者をしていても、いつもほかの女性に囲まれていたラペルト殿下がエスコートしてくれることはなかった。仕方がないので、レインワーズ公爵家の騎士に頼んでいたけれど……。


(確かに、エスコートする相手がいないというのは、困るのかもしれないわ)


 私は、一つ頷くと、レザール様の瞳をまっすぐに見つめ返した。


「わかりました。私でお役に立てるのなら、喜んでご一緒致しますわ?」

「……本当に?」


 自分から誘っておいて、信じられないとでも言うようなレザール様の姿に首を傾げる。

 けれど、次の瞬間、そんなことほんの少しだって考えられなくなってしまった。


「…………ひゃっ!?」


 気がつけば、レザール様の腕の中にいた。

 爽やかなハーブとシャボンの香りが鼻腔をくすぐる。

 知らなかった。推しは、香りまで素敵だ。


 抱擁は、きっと白昼夢だったに違いない。

 次の瞬間、余韻も残さずに私たちは、再び向き合っていた。


 そのはずだ。頬が熱くて仕方ないのも、レザール様の耳元が赤いのも、気のせいに違いない。


「そろそろ、出勤しないといけません……。ところで、打ち合わせがしたいのですが、次の休みに付き合っていただけませんか?」

「はい、わかりました」


 レザール様の背中を見つめる。

 ついつい、今日もその背中を魔術師団本部の建物に入るまで見送ってしまった。


「…………っ!?」


 双眼鏡なんて覗かなくても、レザール様が振り返って私が覗く窓を見上げて、大きく手を振ったのが分かった。

 私は、なぜかどうしようもなく火照って仕方ない頬を押さえて、窓際にしゃがみ込んだのだった。

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