実は白い結婚でした 1
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短編から改稿していますが、続きは4話からです。
「フィアーナ・レインワーズ! 貴様との婚約は破棄する!!」
「え……? フィアーナ?」
王立学園の卒業式。そこで、唐突に言い渡された婚約破棄。
「聖女への度重なる嫌がらせ……。さらには毒殺未遂まで。これ以上は我慢の限界だ!」
「え? 私はそんなことしておりません……」
目の前で私のことを見下ろしている人には、見覚えがある。
私の婚約者だったのだから、当然だけれど、そうではなく。
(乙女ゲームのメインヒーロー……。それにこの場面、エンディング直前の断罪シーン!?)
状況が呑み込めないまま周囲を見回すけれど、残念ながら誰一人私のことを助けてくれようとする人はいないようだ。
事実無根の罪を並べ立てられた私は、弁解の余地もなく、年老いた辺境伯の後妻になることが言い渡されたのだった。
「ま、まさか私が、悪役令嬢フィアーナだなんて!?」
王族の命令は絶対だ。その事実を受け入れる時間もないまま、私は辺境に嫁ぐことになった。
悪役令嬢なのに、断罪直後にそのことを思い出しても、何の得もないと思う。
王太子とヒロインの好感度は、それほど高くないらしい。
悪役令嬢が、五十歳年上の辺境伯に嫁ぐ、というのはノーマルエンドだ。
ハッピーエンドだったら、塔に幽閉されてしまい、バッドエンドでは襲ってきた竜の餌食にされてしまう。
つまり、五十歳年上の辺境伯との婚姻は、知っている中で、一番ましな追放先だった。
***
(――――あれから三年。私は、大人になった。……と思うのよね?)
墓前に供えたのは、夫だった辺境伯の最愛の奥様が大好きだったという、マーガレットの花束だ。
正直いって、ずっとそばにいてくれた家族がいなくなって、悲しくて仕方がない。
それでも、彼は最期まで笑顔で、私の幸せを願ってくれたから……。
「……リーフ辺境伯、それからお会いしたことのない奥様。お世話になりました」
五十歳も年が上だった夫。
初めのうちは、思い出した記憶と異世界、そして自分の境遇におびえるばかりだった私に、本当に優しくしてくれた人。
挨拶を終えて、私に幸せを教えてくれた領地を去ろうとしたとき、慌てたように追いかけてくる声がした。
「奥様! こちらのお屋敷は、全て奥様の名義にされるようにと……!」
「セバスチャン……。ありがとう、でも私は置いていただいただけの形だけの妻。旦那さまの直系がこのお屋敷を継ぐのが道理というものよ」
リーフ辺境伯には、一人だけ孫がいた。
数回しか会ったことがなかったけれど、好青年だった……。
けれど、事業を立ち上げて世界中を飛び回っている彼に、ようやく連絡がついたのが昨日。
全ての遺産は、彼名義にするという連絡もしたけれど、まだ返答は返ってこない。
でも、彼が帰るのを待たずに葬儀を終えた私は、荷物をまとめて、この土地から出て行くことにした。
「リーフ辺境伯は、私の濡れ衣も全部晴らしてくれたから……」
名実ともに、自由の身になった私。
もちろん、亡くなった奥様だけを愛していたリーフ辺境伯と私は、白い結婚だった。
それでも、孫のように思っている、とあの断罪劇の事実を全部調べてくれたことに感謝しかない。
ほとんどの罪状は、聖女と王太子が裏で行っていたことをなすりつけられただけで、最後の毒殺未遂は自作自演だった。
ヒロインと王太子は、公爵令嬢だった私に濡れ衣を着せたことで罪を問われて幽閉された。
その後、リーフ辺境伯は白い結婚だったことを公表して離婚しよう、と申し出てくれたけれど、すでに体調が思わしくなかった恩人を置いて、一人王都に戻るなんて出来るはずなかった。
この世界で、たった一人肉親のように接してくれた人はもういない……。
「王都のお屋敷と、一生暮らせるだけのお金も手に入れたわ」
私は、燃えていた。リーフ辺境伯夫人。この名を手に入れた私。
もう、以前のように同意なく結婚させることは出来ない。
「推しを……。推しを遠くから思う存分愛でることが出来るわ!?」
去って行く私のことを、領民たちが取り囲んで別れを惜しんでくれる。
私が嫁いできてからの三年間で、辺境伯領は見違えるほど流行の最先端になった。
転生知識を生かしたのだから当然だけれど、少しやり過ぎたかもしれない。
遺産は全て、リーフ辺境伯のお孫さんに渡す予定だけれど、転生知識で得た個人資産は潤沢だ。
だから、これからは、この乙女ゲームで私が大好きだった推しを思う存分眺めることが出来るのだ。
「末の王子……。レザールきゅん!!」
悪役令嬢としての記憶を思い出したのは、残念なことに断罪直後だった。
記憶を取り戻す前の私も、可愛く慕ってくれる年下のレザール様をとても可愛がっていた。
けれど、年が違うので卒業式には参加していなかった彼の姿を見ることは出来ないまま、辺境に来ることになってしまったから……。
攻略対象者の中で、唯一の年下枠。
ヒロインよりも背が低いけれど、正義感が強く魔法の能力は王国一とも言われている天才。
「さあ、いざ王都に行くわよ!?」
最新鋭の馬車に乗り込んで、私は王都へと旅だったのだった。
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