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第23話 処分

 ジョージ・ヴァンダーウォール伯爵は、緊急事態のため至急帰れと息子のハリソンに呼び出され、不機嫌であった。


 急いで領地に屋敷に戻ってみれば、当のハリソンは不在だと言う。


 事情を話すよう家令に問うと、ハリソンが揃えたエヴァの犯罪の証拠の数々を見せられた。


 アリステルが家出をして行方不明となった一連の事件についても、真相を聞かされ、現在、ハリソンが保護に向かっていると知らされた。


 一通り目を通すと、伯爵はめまいを覚え、しばらくの間目を閉じてまんじりともしなかった。


「お前はこのことを知っていたのか」

「このこととは、アリステルお嬢様が害されておいでのことでしょうか。それでしたら、もちろん存じておりました」

「なぜ私に報告しなかった」

「聞かれませんでしたので、お知らせいたしませんでした」

「聞かなくても問題があれば知らせるのが仕事であろう」

「そう思い、お知らせしたことがございます。アリステルお嬢様が別棟に移されたころのことでございます。旦那様はそんなことは聞いていない、聞いたことだけ答えればよいと仰いました」

「そうだったか」

「左様でございます。一度でもアリステルお嬢様はどうしていると聞かれておりましたら、お答え致したかと」


 それはただの一度もアリステルを顧みることのなかった自分への嫌味だとわかったが、甘んじて受け入れるしかなかった。


 自分が一家の、伯爵家の主として、ふがいなかったのである。


「エヴァ様とその共犯者を捕らえております。若様に処分をお任せになりますか」

「いや、私が裁こう。自分で蒔いた種だ、息子に尻ぬぐいさせるのは格好がつかんだろう」

「御意に」


 閉じ込められていた馬車の扉が開いたとき、エヴァはひどい有様だった。


 食事も与えられず、水分も与えられなかったため、喉がカラカラに乾いて、喉を掻きむしった跡がみみずばれになっていた。


 排泄物も垂れ流すしかなく、ものすごい悪臭を放っている。


 何度も開かない扉をこじ開けようとして、爪もはがれてしまい血まみれだ。



 馬車の扉が開いたら閉じ込めた奴に罵詈雑言を浴びせようと思っていたエヴァだったが、実際にはそのような気力はなく、ただ力なく扉が開くのをぼんやりと見つめていただけだった。


 扉を開けたのはヴァンダーウォール伯爵であった。


「み、水を…」

「水が欲しければ、正直に答えろ。アリステルを魔の森に捨てたのは、お前か」

「ち、ちがう。私じゃない」

「そうか。正直に答えないなら、もう何日か馬車にいればいい」


 そう言って、無情にも扉を閉めようとする。エヴァは取り乱して扉にすがった。


「正直に答えます…!」

「では答えろ。アリステルを魔の森に捨てるよう命じたのはお前か」

「はい…」

「アリステルを捨てに行った御者を殺すよう命じたのもお前か」

「はい…」

「御者を殺した男は何者だ」

「彼のことは、どうかお許しください。すべて私が悪いのです」

「聞いたことに答えろ。あの男は何者だ」

「私の幼馴染です。それだけの関係です」


 ヴァンダーウォール伯爵は、もうエヴァの言うことは一切信じなかった。


 先ほどエヴァの共犯だという男の顔を見たとき、伯爵はひどい衝撃を受けていた。


 その男に会うのは初めてだったが、面差しが似ていたのだ。我が子と信じていたミネルヴァに。


 確証がなくとも、伯爵にはわかった。ミネルヴァはこの男の娘だと。


「ミネルヴァの父親だと、私には言えぬか。もうよい。馬車の中で野垂れ死ね」


 伯爵の冷たい視線を受けて、エヴァは発狂した。


「アハハハ、そうさ!今頃わかったのかい。ミネルヴァは彼の子よ。あんたなんか、これっぽっちも愛していなかったのさ。ざまーみろ!」


 何を言われても、もう伯爵の心は揺らがなかった。


「そうか。やはり私の子ではなかったか。私もお前を愛したことなど、一度もなかった。お互い様だな。地下牢に連れて行け」

「かしこまりました」


 共犯の男とエヴァは、伯爵家の金を横領していたので、強制労働施設へ連行され、横領した額を返金し終わるまで過酷な環境で働かされることになるだろう。


 この二人の娘のミネルヴァは、何も知らないただの子供だと温情をかけ、伯爵家の子供とは認めないが、成人するまでの間、離れで養育することを決めた。


 ハリソンの命を狙って馬車を襲った連中は、王立の騎士団に引き渡した。


 正式な裁判を受け、罪が確定する。


 伯爵家の嫡男を襲ったのだから、それなりに重い刑になるだろう。


 こうして伯爵家にまつわるすべての犯罪者を処分したところで、ハリソンがアリステルを連れて帰って来た。

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