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第11話 馬車の襲撃

※女性が襲われるシーンがあります。苦手な方は読み飛ばしてください。

 アリステルは不安で胸が押しつぶされそうだった。


 胸に手を当て、何とか落ち着こうと深呼吸をするが、鼓動は落ち着きそうもない。


 指先がガスター夫人のくれたルビーに触れ、涙がこぼれそうになった。



 王都へ入ろうと急ぐ人々とすれ違いながら、門の外へと出る。


 門を出てから、徐々にスピードを上げ、街道をひた走る。


 しばらく行った辺りで、背後から土煙を上げて勢いよく追いかけてくる2頭の馬に気が付いた。


 みるみるうちに追いつかれ、馬車を追い越したかと思えば、馬のいななきが聞こえ、ガタガタと馬車が揺れ、止まってしまった。


 恐ろしさから手足がガクガクと震える。


 扉が外から開けられると、黒い布を口元に巻き顔を隠した男が、アリスをねめつけた。


「降りろ」


 アリステルが震える足で何とか馬車から降りようとしたが、うまく立てなかった。


 すると、男がイラついて腕を乱暴に引っ張った。


「早くしろ。おとなしく従え」


 馬車から半ば引きずられるように降りると、御者が倒れているのが見えた。


 生きているのか、死んでいるのかはわからなかった。


 男はアリステルを引っ張り、両手をロープで縛り上げた。


「悪く思わないでくれよ。殺しはしない。傷物になるだけさ」

「いやっ」


 アリステルは気力を振り絞って、男の股間をめがけて全力で足を蹴り上げた。


 反撃を予想していなかった男はまともに急所に蹴りが入り、激痛から悶絶する。


「うっ・・・!」


 アリステルはすぐさま身をひるがえし逃げ出そうとしたが、もう一人の覆面の男に髪をつかまれてしまった。男はつかんだ髪の毛をギリギリとひねり上げた。


「痛いっ!」

「なめた真似をしてくれたな」


 ブチブチと何本かの毛が抜けるほどひねり上げた髪を、男は持っていた剣で無造作に切り落とした。


 反動でアリステルは地面に転がる。


 きらきらと光る髪が辺りに散らばった。


「次は髪ではすまないぞ」


 倒れたアリステルの上に男はまたがり、アリスの服を上から下まで刃物で一直線に破った。


 下着があらわになる。


「やめて!やめてっ!」

「うるせぇ、黙れ!」


 男はアリステルの口を手で乱暴にふさぎ、反対の手で下着をはぎ取ろうとする。


(息ができない…!苦しいっ)


 苦しさにもがいていた力も弱まり、だんだん苦しささえも感じなくなってくる。


 急激に薄れる意識の中で、かすかに男のうめき声を聞いた。


 しかし、もう何が起きているのかわからず、そのまま意識を失った。



◆ ◆ ◆



 日が暮れた街道を、王都目指して駆ける者がいた。


 レオンとエイダンである。二人は今回も組んで依頼に当たっており、馬を並べて走らせていた。


 二人はキャラバンの護衛などで度々顔を合わせるうちに親しくなったが、パーティーを組んでいるわけではない。


 レオンは真面目で堅物。


 何事も真正面から受け止め、正義感も強い。


 エイダンから見れば、不器用な生き方しかできない()()()なのだった。


 一方エイダンは、愛嬌を振りまいて何事も卒なくこなすオールマイティだが、小さいことが気になるせせこましい性格であった。


 二人は互いにない性質をうまく補いあい、良い相棒と言えばそうであった。


 今回の依頼は王都からスコルト国へ依頼の品を運び、確かに受け取ったという証文を持ち帰る仕事である。


 貴重な物を運ぶ際には、最低2人で任務を引き受けるのが普通である。


 一人が持ち逃げしようとするのを防ぐためである。


 日が暮れたら早めに野営を張って夜を安全に過ごすことを優先するのだが、あと少しで王都に着くため、馬を急がせていた。


 こんな王都にも近い街道で、一台の目立たない馬車が停車し、女が襲われている現場に行き合わせるとは、思ってもいなかった。


 男は頭に血が上っているのか、二人の接近に気が付いていない様子だ。


 レオンはすかさず馬から駆け降りると、男の後頭部を剣の柄で打ち気絶させた。


 男が持っていた縄で二人の賊の手足を縛り蹴り転がすと、気を失って倒れている女を介抱しようと近づいた。


 手を縛られ倒れているのは、見知った顔で驚く。


「おいおい、まさか()()アリスなのか?」


 エイダンがのんびりとレオンの馬を引いて来た。


「そのようだな。息はある。その木立の辺りにテントを張って休ませよう」

「こっちの御者の男はこと切れてるな。ちょっくら警備隊に引き渡してくるわ。その後ギルドに寄って、依頼完了の手続きもしておく」

「ああ、頼む。アリスが目覚めたら、少し移動しておきたい。ただの物取りとは思えない。用心するに限る」

「そうだな。俺はどうせ王都で事情聴取されてすぐには動けねぇだろう。先に行ってくれ。いったんここで解散だ」

「ああ」

「報酬はちゃんと山分けするからよ。じゃあな」


 そう言うと、エイダンは自分の馬に馬車をつなげ、犯人二人を馬車に放り込み、御者の亡骸もマントにくるんで丁重に乗せた。


 馬車の中に小さなカバンが置いてあるのに気が付き、レオンに渡すと王都へ出発した。

たくさんの方に読んでいただきまして、ありがとうございます。

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