拝金主義者の末路
そして現在、ジョージは社長室にて、二人の殺し屋に睨まれている。自らの過去を語り終えた彼はデスクに拳を叩きつけ、激昂する。
「ワシはあの女が憎い……あの女に全てを狂わされたんだ! だが金だけは! 金だけは決してワシを裏切らなかった! ワシにはもう、金しかない!」
彼は額から汗を流し、眉間に皺を寄せ、酷く取り乱していた。そんな彼の言葉から、ナギサは一つ嘘を見破る。
「君は一つだけ、嘘をついているね」
「なんだと?」
「君は今も、カレンのことを愛している。その想いを掻き消すために心を金で染め、君は今も苦しんでいるはずだ」
「ワ……ワシは! ワシは何故……」
今まで抑えていた感情が解き放たれたのだろう。ジョージは泣き崩れ、体を震わせながらデスクに突っ伏した。
そんな彼を後目に、スバルはナギサに問う。
「こいつ……マジでどうする?」
この男を殺すべきか否か、美学を持つ者からしたら実に悩ましいところであろう。しかしナギサに迷いはない。
「もちろん殺す。どんな過去があろうと、彼の狼藉が許されて良い理由にはならないからね。それに、情状酌量の余地も足りないよ」
それが彼女の答えだった。ジョージはすぐに顔を上げ、命乞いをする。
「待て! これからは心を入れ替える! カレンを悲しませないような男にだってなる! 頼む、ワシを殺さないでくれ!」
「今更反省したって、もう遅いんだよ。被害者やその親族、恋人や友人が、それで納得してくれると思うのかい? 君は絶対に許されないことをしたんだ」
「金ならある! いくらでも出す! だから……」
「僕たちは、金よりも美学を大事にするんだ。美学は金では買えないからね」
「金では買えない? 何を馬鹿なことを言っている! 金が全てだ! 真実の愛ですら、金の前では無力だったんだぞ!」
金が全て――――もはやその考えが変わることはないだろう。ナギサは呆れたような表情を見せ、彼の眉間に指先を向ける。
「良い夢を」
一筋の光線が、ジョージの眉間を容赦なく貫く。彼は頭から血を噴き出しつつ、椅子ごと後方へと倒れる。そして二度と、彼は目を覚まさなかった。
スバルの方へと振り返り、ナギサは言う。
「疲れたね……スバル。帰ってヤろうか」
その誘いに対し、スバルはあまり乗り気ではない。
「マジで言ってんのか? 俺はボロボロなんだ……休ませてくれ」
彼がそう言ったのも無理はない。クレナイやソルクスとの戦いを経て、彼は満身創痍なのだ。
「しょうがないなぁ。今日のところは安静にしないとね」
ナギサはスバルを横抱きにした。それが不服だったスバルは、抵抗を試みる。
「おい、お姫様抱っこはマジでやめろ! 普通におぶってくれよ!」
「さあ、そろそろ行くよ」
「マジで人の話を聞け!」
彼はそう言ったが、ナギサはそれを聞き入れない。二人は再び貨物船に忍び込み、火の国へと帰っていった。
*
それは数週間後のことである。あの会議室に、空席は無かった。以前空いていた席に腰を降ろしているのは、アルセアである。
「まさかアイツが……ネェ」
彼は何やら、意味深なことを口走った。彼に続いて発言するのは、ヴァルトだ。
「ククク……奴は私のマスターピースになりうる存在かも知れないな。喜ぶが良い、リリック……ついに君が動く時が来た」
ついに直々に指示が下った。リリックはその場から立ち上がり、仕事の詳細を訊ねる。
「それは光栄だね! ところでボス! ミーは何をすれば良いの?」
「君とアルセアを木の国に送り込む。そしてあの二人が殺しの依頼を受けるまで村を焼き、人の命を奪い続けろ」
「良いね良いねぇ! 警察や軍隊にはミーを止められないからね……木の国の連中もあの二人を頼るしかないってわけだ!」
彼は有頂天だ。舞い上がる彼の姿を見て、アクロとソフィアは半ば呆れていた。