信用
それからはスバルの無双が続いた。彼はレーザー光線や銃弾を浴び、全身から血を流しながらも体術を駆使していった。一発、二発、三発と、彼の鋭い打撃や蹴りが炸裂し、ソルクスの体には亀裂が入っていく。
「ナギサが俺にこの場を任せた理由がわかるか?」
「い……一体、何故……」
「俺がマジでお前を倒しちまうからだよ!」
凄まじい猛攻だ。スバルはその場から跳躍し、踵落としを兼ねた空中前転をする。この一撃を脳天に食らい、ソルクスは煙を出しながらよろける。無論、この戦いにおいてそんな隙を見せることは命取りだ。
「隙あり!」
スバルの手刀により、ソルクスの胴は切断された。
「死なば諸共だ! テメェなんか、テメェなんか! 絶対にブチ殺してやるからなぁ!」
ソルクスがそう叫んだのも束の間、彼の体は閃光を放った。
二人のいるフロアは、激しい爆発に呑みこまれた。
この時、ナギサとアルセアのいる部屋に吊るされたモニターに変化が起きた。画面が真っ白になった直後、映像が消えたのだ。おそらく、あの爆発により監視カメラが破壊されたのだろう。こんな時であっても、ナギサは決して取り乱しはしない。彼女はいつものように妖艶な微笑みを浮かべ、断言する。
「あんな爆発程度では、スバルは死なないよ。少なくとも、この社屋が跡形もなく消し飛ぶくらいの火力じゃないと彼の命は奪えない」
相変わらず、彼女はスバルのことを心から信用していた。アルセアは深いため息をつき、彼女に忠告する。
「今回の結果がどうであれ、あまり仲間に大きな期待を抱くものではないヨ。いつかその仲間を失った時、キミは自責の念に駆られることになるからネ」
彼の言い分はもっともだ。しかしナギサには、一つだけ理解できないことがある。
「どうして僕に助言なんかするんだい? 地下闘技場で会った時だって、君は僕との戦いを拒んだし、君の目的は一体なんなんだい?」
これは当然の疑問である。その質問に対し、アルセアは口を濁そうとするばかりだ。
「今はまだ知らなくて良いヨ。キミはいずれ、ボクの目的を知ることになるけど、今はまだその時ではないからネ」
「君が敵かどうかだけ、教えて欲しいなぁ」
「どうとも言えないネ。ボクはボクの目的があって動いている……ただそれだけのことだヨ」
どこまでも怪しい男である。そんな二人の会話を止めたのは、ある一人の男である。
「待たせたな……ナギサ!」
片足を引きずりつつ、スバルがこの場に姿を現した。アルセアは妖しい微笑みを浮かべ、二人に言う。
「さて、ボクの休憩時間は後十分程度で終わってしまう。無益な戦いを避けたいのなら、早く社長室に向かうことだネ」
彼の有り余る怠惰は、ナギサたちにとっても好都合だ。
「わかった……行ってくるね」
「お前がナギサとどういう関係かは知らないが、少なくとも悪い奴じゃなさそうだな」
彼女たちはすぐにフロアから立ち去り、社長室へと向かった。そんな二人の後ろ姿を見送りつつ、アルセアは言う。
「アデュー」
それから彼は大きく伸びをし、そのまま過眠を始めた。
*
数分後、二人はついにジョージと対面した。無論、スバルが最初にすることは決まっている。
「お前、金には困ってなさそうだけどな。何故、マジで死人の出るようなマッチポンプなんかしたんだ?」
先ずは相手の素性を理解する――――それが彼のやり方だ。ジョージは社長椅子ごと二人の方へと振り返り、話を始める。
「ワシは億万長者になったことで全てを手に入れた。私は財力が無ければ、誰からも好かれないし、愛されもしないだろう」
「お前、マジで過去に何があったんだ?」
「あれは、今から三十年くらい前のことだった……」
この後、彼の口から、絶望に満ちた過去が語られる。